まさかあたしの中に、こんなに女々しい部分があるなんて知らなかった。
うじうじ悩むのは大嫌いで、思った事はすぐに行動、即実験!間違ってたら、それはそれで貴重な経験としてそれで良し。そしてさっさと次に向かう。
良くも悪くもそれがあたしの持ち味だった、はずなのに。
たった1つの言葉を伝える……ただそれだけの事なのに。
あたしは、一体どれだけの時間を費やして1人悶々と悩み苦しめば気が済むんだろう………
◇◇◇◇◇
『おやすみ』の言葉を告げてドアを閉じてしまえば、朝までここはあたしだけの部屋。
ベッドに飛び乗って、ボスッと枕に顔を突っ込むと深々と自己嫌悪の溜め息をついた。
今日もまた、昼間はよく自分を誤魔化せたと、誉めるべきか蔑むべきか。
いつもと変わらない毎日を過ごして、いつもと変わらない距離を保って。
それなのに、いつの間にか変化したあたしの心が、それだけじゃ物足りないと喚いている。
ガウリイの一挙一動に無意識に神経を尖らせて、些細な事で挙動不審になっているような気がする。
ほんの少し触れられるだけで、その部分に一気に血が集まって身体は熱くなるし、笑いかけられる度にどきどきして泣きたくなる程息苦しい。
もっと近くで触れて欲しいと思う。
その笑顔をあたしだけに見せていて欲しいと願う。
『相棒』と言う名のつかず離れずのあやふやな距離を、0にしてしまいたい。
ガウリイに対してそんな風に思ってしまうようになったのはいつからだろう。
この初めての感情が『恋』なのだと。
そう気付いてしまったのはいつだった?
気付いてしまった日から、あたしはもうずっと寝不足の日々を過ごしている。
「……嫌われる、って事はない……よね?」
好かれている自覚はある。
これだけ長い間一緒に旅をしてきて、互いの命を背中に託して何度も死線をくぐり抜けてきた。
漫才のようなやり取りは心地好くて、心配されるとくすぐったくて。一緒にいると無意識の内に余計な力を抜いてしまう。
ガウリイの前では、誰よりも無防備になってしまうのは絶対の信頼と安心があるからだ。
なのに、最近のあたしはガウリイを前にすると緊張してしまう。
好意の質が変わると、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。
『好き』にも種類があり過ぎて。
ガウリイがあたしに向けている好意がどの『好き』なのかわからなくて。それなのに、それを聞き出す事も出来なくて。
気になる事があったらすぐに確かめなきゃ気が済まない質なはずなのに。
「………でも……『自称保護者』は相変わらずだしなぁ……」
あたしの事を全く『女』だと思ってなくて、今もずっと初めて会った頃のように『危なっかしい子供』としか見ていないんだとしたら。
恋愛感情を挟まないから、あたしたちは今まで上手く『相棒』としてやって来られた。それはわかっている。
余計な感情を見せてしまった事で、この関係が壊れてしまうとしたらーーーそれが何より怖い。
膨らみきった感情を吐き出してぶつけてみたい。
けれど、その想いをガウリイは受け取ってくれる?
上手く受け止めてくれるかもしれない。
思いもよらなかった事として、動揺して取り落としてしまうかもしれない。
そういう対象じゃないと、あっさりと弾かれてしまうかもしれない。
面倒はイヤだと、避けられてしまうかもしれない。
どの行動を取るかなんていくらぐるぐる考えてみても、ガウリイじゃないあたしが答えを知っているわけなんてない。
はぁ……と、今夜だけでもう何度目になるかわからない溜め息を吐き出した。
意味のない思考を繰り返して、夜はどんどん過ぎていく。
「………万が一でも、別れる事になるのだけは、イヤだしなぁ……」
この感情を告げる事でそんな事になってしまうくらいなら、どんなに苦しくてもこの想いは自分の中に封じ込める。
自分を偽ってでも、何でもないと笑ってみせる。
今の『相棒』のままでも、ずっと一緒に旅して戦って仕事して笑っていられるなら、今までのあたしを演じてみせよう。
………でも、そんなあたしはあたしじゃない。
いつかきっと壊れてしまうだろう。
壊れてしまっても、それでもガウリイと一緒にいたいと思うあたしは、もう既におかしくなっているのかもしれない。
「だけど……同情で一緒にいられるのは許せないし」
その気もないのに気持ちを受け入れたフリをされたら、あまりの惨めさにあたしから姿を消すだろう。
ガウリイの優しさは時に残酷だ。
ぐるぐるぐるぐる、出ない答えを求めてただ焦る。
たった一言伝えれば、事態はどこかに向かって動き出すはずなのに。
朝になる度に『今日こそは!』と思うけれど。ガウリイの顔を見ると何にも言えなくなる。
ガウリイの言葉が、ガウリイの心が知りたいだけなのに。
あたしは、一体どれだけ寝不足の夜を更新し続ける気だろう。
この間はとうとう夢に願望が現れた。
飛び起きた後も夢は消えてくれなくて、身体中が火照って鼓動がおかしい事になっていたけれど。
夢だってわかっているのに。それは願望が描いた嘘でそんなものに意味なんてないってわかっているのに。
それでも嬉しくて幸せを感じてしまった自分に、激しく落ち込んだ。
どれだけ勇気がないんだろう。
あたしは、ガウリイを好きになってから。
一体どれくらい、弱くなっちゃったんだろう。
「……どんな禁呪を唱えるより、この一言の方が怖いのよ……」
運命なんて自分の力で引き寄せるものだって、いつだってそう言うつもりで戦ってきたのに。この戦いにだけはいつまでも踏み出せない。
当たって、砕けてしまいたくない。
言いたい言葉は言えないで。
関係が壊れてしまう想像に怯えて。
いつももう少しのところで踏みとどまって。
いつまでも本音が吐き出せない。
いっその事、今隣の部屋に飛び込んでしまえば楽になれる?
そんな想像しただけで鼓動が速くなって息苦しくなって身体は硬直してしまう。
ーーーああ……今夜もまた、せめぎあう想いの狭間で夜が終わってしまいそう……
◇◇◇◇◇
いくつもの溜め息を飲み込んで、眠れない夜はまだ更新し続ける。
薄い壁1枚隔てたその先にいる男もまた、同じように眠れない想いを抱えているなどと思いもしないで。
壊れそうな感情に耐えきれず、言えない一言を吐き出すのは、一体どちらが先だろう?
この2人が唇を重ねて共に安眠出来る夜は、まだしばらく先になりそうだ……ーーーー
|