君が思うよりも


 

 それはいつものように、宿をとって、夕飯も入浴も済ませた後。

 あたしが寝る前に用を足そうと、部屋から廊下に出た時のこと。

 ちょうど、旅の連れのガウリィも、あたしの部屋の隣、彼の部屋のドアに鍵をかけているところだった。

 それが意味することは。

 「・・・?ガウリィどっか行くの?」

 「ああ・・・。ちょっと飲みに行こうと思ってな。」

 「ええ?じゃあ、あたしも行くっ!ちょっと待ってて、着替えてくるから。」

 「リーナ。女の子がこんな時間に、酒場なんか行くもんじゃないぞ?」

 部屋に踵をかえそうとしたあたしに、後ろからかけられる声。

 その台詞に、かちんと来る。

 「なんで?あんたも一緒に行くんだから、いいでしょう?それに、まだ早いじゃない!」

 「だめだ。もう寝る時間だろ?」

 議論の余地なし、即座に投げつけられた言葉。

 「なによっ・・・!子供扱いしてっ!」

 あたしは部屋のドアを開けて、そこに駆け込んだ。

 ガウリィの目の前で、叩きつける様にドアを閉めてやる。

 こういうところが、子供なんだと言われてしまうかもしれないけれど。

 だって、一緒にいたいのに。

 もうちょっとの間だけ、一緒にいたかっただけなのに。

 もう、恋人のはずなのに・・・!

 ガウリィは、一時間ほどで帰ってきたようだったけれど。

 その晩は、口惜しくてあまり眠れなかった。

 次の朝、食堂で朝食のメニューを渡してくる彼は、あまりにいつもどおりで。

 毒気を抜かれて、うやむやになってしまったけれど。

 その晩、次の街で宿をとって。

 昨日飲みそこねたし、部屋で飲むならガウリィも文句はないだろうと、宿のおばちゃんに頼んでワインを一本もらった。

 グラスも二つもらって、あたしは相棒の部屋をノックしたのだ。

 「ガウリィ?」

 「リナ?どうした?開いてるぞ。」

 ガウリィの返事に、あたしはちょっと困って。

 「あのさ、開けてくれない?」

 だって、片手にはワインボトル、もう片方にはグラスが二つ、引っかかっている。

 ドアを開けるのは、ちょっと難しいような。

 ドアの向こうで、ガウリィが立ち上がって、近づいてくる気配がする。

 程なくして、開けられたドア。

 あたしは、その隙間から、するっと部屋に入ってしまう。

 「な・・・お前さん、それ・・・!」

 「へへ〜。一緒に飲もうと思って、もらってきちゃった。部屋ならいいでしょ?」

 つい最近まで、お酒を断られたことなんかない。

 しかし次にガウリィの口から出たのは、あたしの予想もしていなかった言葉だった。

 「駄目だ。もう部屋に帰って寝ろ!」

 いつになく強い口調、少しいらついたような表情。

 あたしは思わず、びくっとなった。

 なんで・・・?

 昨日のことといい、なんかその、最近あたし迷惑がられてたりする?

 最近・・・コイビトに、なってから?

 しかし、あたしが少々、戸惑っているのに気づいたのだろう。

 彼は慌てて、弁解のような事を始めた。

 「あ、いや、すまん・・・。別に怒った訳じゃないんだ。」

 「じゃ、なんで・・・。昨日も、連れてってくれなかったし、最近すぐあたしを追い払うじゃない!あたしとなんか一緒にいたくないってことなの?!」

 そうだ、よくよく思い出してみれば、そうなのだ。

 戸惑いは去り、代わりに苛立ちが募ってくる。

 「追い払ってなんか・・・!いや、ただその、危ないからさ、俺。」

 「は?危ない?」

 何を言ってるのか、よく分からない。

 側にいると、あたしに吹っ飛ばされるから危ないとでも?

 なんとなく剣呑、どころかぶちきれ寸前になってきたあたしに気づき、彼は慌てたように、しかし少し照れたように言う。

 「だから、そのっ。・・・リナ、まだいやだろ?」

 「へ?」

 なにが?

 「あー、だから。・・・一緒に、寝るのとかが、だ。・・・これ以上言わせんでくれよ、いい加減恥ずかしい。」

 ・・・えっと、つまり。

 一気にかっと染まる、顔。

 「・・・!う、うん・・・。えと、あの、もちっとだけ、その・・・。」

 「分かってる。最近、あまり部屋に入れなかったり、そっちにも行かなかったのはそういうわけだ。だからさ、あんまり無防備なことしてくれるなよ。」

 しどろもどろになってしまったあたしに、ガウリィはきっぱり言ってのける。

 あたしはただ、赤くなることしかできない。

 なのにそんなあたしに、彼はさらに言い募ったのだ。

 「酒場だってそうだぞ。俺達みたいな旅人が行くようなとこは、高級なバーとかじゃないだろう?」

 「う、うん・・・。」

 確かに、行きずりのあたし達が行くのは、場末とまでは行かないまでも、ぱっと入れて安い、お気軽な店だ。

 「そういうとこは、まぁ・・・客層もそういう奴らになるんだよ。流れの傭兵とか、一晩限りの女を探してる旅人とか・・・。知ってるだろ?」

 「それは、分かってるけど・・・。」

 でも、あたしは娼婦でも、色っぽいねーちゃんでもないし。

 そもそも、隣にこんな男が・・・ガウリィがいて、声をかけてくるような奴がいるとは思えないけど。

 あたしの考えてる顔を見て、ガウリィは苦笑した。

 「分かってるけど、分かってないな、その顔は。」

 「・・・何が。」

 ガウリィのくせに、あたしが分からなくて、あんたが何を分かるって?

 「だから、俺がいるし、別に誰も声をかけてこないのに、とか思ってるだろう?」

 「う、うん・・・。」

 「それが、分かってない。」

 ため息ついて、続ける。

 「別に、声かけられるとか、そういうのが危ないって思ってるわけじゃない。」

 「じゃあ、なに・・・?」

 「例えば俺が席を外した隙とかに、声をかけられたところで、お前さんがついていくような馬鹿じゃないことも、そうそうそこらの野郎に力づくで負けたりしないことも知ってるよ。ただ、な。」

 うん、ただ?

 「ただ、嫌なんだよ、俺が。飢えた男どもに、声をかけられることはもちろん。そいつらの視線にだって、リナを晒したくないんだ。」

 「へ・・・?」

 なんか、あたし・・・。

 すごいこと、言われてない・・・?

 それは、つまり、ひょっとして。

 ものすごい、やきもち、独占欲?

 真っ赤になって、呆然としてしまったあたしに、とどめの一撃と共に降ってきたもの。

 「多分な。」

 「うん?」

 「お前さんが思ってるよりもずっと、俺はリナが好きだよ。」

 ガウリィの唇は、あたしのそれから離れた後、頬に二箇所、ちゅ、ちゅっと音を立てて触れて、離れていった。

 そして。

 「今だって、このまま部屋に引きずり込んじまいたいぐらいなんだからな。」

 と言って、くすりと笑った。

 「・・・!!」

 さらに真っ赤になったあたしを見て、今度は苦笑い。

 「ま、もうしばらくは待ってやるよ。・・・おやすみ、リナ。」

 唇は今度は、額に触れた。

 ガウリィの部屋のドアは閉まって・・・。

 あとは、廊下にへたり込む、あたしがいるだけで。

 

 

 

end


 

♪桂さまからすっごい可愛いお話を頂いちゃったのですよvv

桂さんが書いたガウリナの中で、多分うちのカラーに近いものだというコメント付きで(^^)

もう、こーゆーガウリイがものすっごく!!大好きなんです!!!リナが可愛いのはもはや当然なんですが、「これでも我慢してるんだからわかってくれよ」的なガウリイが、もうまさにヒットって感じでvv

今からこんな状態で、リナの覚悟が出来たらどうなっちゃうのか、実に楽しみですが(笑)

物凄くツボなお話を、本当にありがとうございました♪