sunrise

 1.夜明け前の闇


 

 気がつくと、周りは真っ暗だった。
 「あ、そっか……」
 野宿の最中、突然襲ってきた魔族。撃退はしたものの、戦っている間に足場の悪いところに出てしまっていたらしい。
 あっと思った時にはもうあたしの身体は宙に投げ出されていて。
 「取り敢えず、あいつを倒し終わった後で良かったわね……」
 これでまだ生きていたとしたら洒落にならない。
 どれくらい落っこちたのかは分からない。おまけに今夜は新月。森の中ということもあって、あたしの目には何も映らなかった。
 ゆっくりと身体を起こしてみる。あちこち痛むが、どうやら骨折とかひどい怪我はしていないみたいだ。

 「ライティング」

 魔法の光を生み出し、息をつく。痛む身体を引きずりながら、あたしは近くの木の根本に座り込んだ。
 「ガウリイ、どうしてるかな」
 耳に残っている、ガウリイの声。
 やっぱ、心配してるんでしょうね。あの過保護の自称保護者は。
 あたしがほんの少し傷…それもかすり傷を負っただけでおろおろして。そのくせ、自分の怪我には信じられないくらい無頓着で。あんなんでよく流れの傭兵なんてやってられたと思う。

 

 そう。
 いつだって、ガウリイが優先するのはあたし。
 でも……それが最近、心苦しい。

 

 「もっと自分の事考えても良さそうなのに……」
 いつもいつも、厄介ごとに巻き込まれるのはあたし。そりゃ、トラブルに自分から首を突っ込むくせがあるのも事実。
 でも、最近はトラブルなんてそんな可愛らしい名称ではすまない。
 “金色の王”の力を借りた呪文が使えるあたしは、魔族にとって無視できない存在になってしまっていた。そのおかげで、今夜のように魔族に襲われることも珍しくない。

 

 あたしがそれを望んだわけではない。
 でも、それが事実。あたしには変えることの出来ない……

 

 とはいえ、あたし自身がそれを嫌だとか思っているのではない。どういう状況であったとしても、あたしはその全てを自分の意志で決めてきた。例え、選択肢がたった一つしかないと思えた時でも。そうすると決めたのは、いつだってあたし自身。
 だから、その結果がどんなものになったとしても、それを受け止めていく覚悟くらいある。
 ……それでも、ガウリイは違う。
 あいつは、ただ巻き込まれただけ。たまたま森の中で出会ったあたしにくっついて来てしまったから。人のいいあいつは、魔族に狙われるあたしをほっておけないと思ってるだけ。
 心配性で過保護で……底抜けに優しい、ガウリイは。今更あたしを見捨てられなくなってるんだ。
 誰だって、自分の命が一番大事なのに……
 「ほんと、馬鹿よね……」
 さっさとあたしなんて見捨ててしまえばいいのに。そうすれば、もっと楽に生きていけるのに。
 ガウリイほどの腕があれば、どこだって雇ってくれる。魔族相手に十分通用する腕を持っているガウリイが、人間相手で後れをとるはずがないんだから。
 そのうえ、持って生まれたあの顔。
 そうしようと思えばいくらでも楽に生きられる。なのに、ガウリイはいつもあたしと一緒にいる。辛い道を、選び続けている。
 「でも……一番馬鹿なのは、あたしよね……」
 彼の優しさに甘えて、別れられないでいるのはあたし。
 離れられないのは……あたしの方。
 あの一件で嫌というほど思い知らされた自分の気持ち。それを自覚した後、あたしは月に誓いを立てた。

 ガウリイは、あたしが守る。

 でも。結局いつも守られているのはあたしの方だ。
 精神的にも肉体的にも、いつだってガウリイはあたしの盾になってくれている。
 盾になって、いつだってあたしの為に傷ついて。

 そして、いつか………?

 表現の使用のない恐怖に襲われ、あたしは自分の身体を抱きしめた。
 でもそれはあり得ない話どころか、つい今さっき起きていてもおかしくない事。たまたまそれがさっきでなかっただけで……
 となると、結論は決まっている。離れればいいのだ。ガウリイから。
 そう何回も考えた。その度に、彼から離れられずにいる自分がいる。

 いつか、必ず。
 あたしは、きっと彼を死に導いてしまうのに………

 「………………………」

 「あ」
 声がした。ガウリイだ。
 返事をしようとして、あたしは押し黙ってしまった。返事の代わりに、浮かばせていたライティングの明かりを移動させる。
 ふわふわと漂いながら、それは遠くへ離れていく。

 あたしの周りに、闇がたれ込める。全てを覆い隠す闇が。
 あたしは息を潜め、気配を絶つ。

 足音が、遠のいていく。
 あたしはそれを……ただ聞いていた。

 闇の中で。

 ………これで、いいんだ………


  

♪Lilyさまに頂いてしまいました!!

しかも前作『moon〜誓約〜』の続編ですよ!!

あのリナもいじらしかったけれど、こっちはもう輪をかけて可愛いです♪自分だけの事はあんなに強気なのに、ガウリイが搦むと弱気になる。そんなところがまた実に女の子っぽくって可愛いじゃないですかvv

続編も楽しみに待っていましょうね!!