恋する水母

〜前編〜


 

 あたしたちが2日前から泊まってる宿のおっちゃん情報によると、昔からのお祭りがあるとかで、今日は朝から町中ごったがえしていた。

 それにしても人が多い。
 人口のあまり多くもないこの町にしては、異様な程の人の波。
 不思議に思っておっちゃんに聞いてみると、このお祭りには言い伝えがあるらしく…

 なんでもこの町のどこだかにある"神の水"には縁結びのご利益があって、祭りの夜にその水を想い人と同時に飲む事ができれば想いが叶う、と伝えられているという。
 だから隣町や少し遠い町からも、大勢人が来るんだそうだ。
 なるほどねぇ…藁にもすがる、ってやつかしら。

 お昼をすぎると、町の人たちは屋台の準備やら、花火の準備やらで皆大忙し。
 いつものように町の定食屋メニューを完全制覇してご満悦のあたしの袖をアメリアが掴む。

 「な…何よ、アメリア」

 「お話がありますっ!」

 ずんずんずん。
 アメリアに引き摺られるまま宿の裏まで来たあたしに、アメリアが一言。

 「お願いしますっ!今日一日、私とゼルガディスさんを2人っきりにしてくださいっ!」

 あーあ、真っ赤になっちゃって。
 例の「縁結びのご利益」ってのを期待してるわけね。
 でも、なんであたしやガウリィがいるとまずいのよ?

 「…さすがにリナさんやガウリィさんがいると私だって恥ずかしいですっ(照)」
 (リナさん達と一緒だとトラブルに巻き込まれて2人になる機会もなくなりそうなんて絶対言えない…)

 「わかったわ。じゃあ、午後からあたし達は別行動って事で。」

 「助かりますぅ、リナさんっ。」

 「かわりに、明日のご飯代は全部持ってもらうわよ。それぐらい、安いもんでしょ♪」

 「うぅっ。はぁあい…(涙)」

 かくして、午後からあたしとガウリィ、アメリアとゼルガディスというチーム(?)に分かれた。
 (なんで分けるんだ?と男たちは不思議そうな顔をしてたけど)

 夕方を過ぎるともう辺りはうす暗く、祭りの灯がちらちらと揺れてとっても綺麗。
 あたしも今日はちょっぴりおめかしして、女の子っぽく浴衣なんて着てみたりして…
 髪を後ろで結い上げている時、ガウリィが部屋に入ってきた。

 「おーい、リナぁ。そろそろ行くぞぉ!俺…腹減ったぁ」

 …はいはい。
 あんたに色気なんぞ期待してませんけどね、あたしゃ。

 まあいいか。ひさしぶりにガウリィと2人っきりでおでかけ。
 ガウリィはあたしの気持ちに全然気づきそうにないけど、一緒にいられる事が幸せだから。

 あたしは、さっさと髪を結ってしまうと、ガウリィの後を追って駆け出した。

 「うーん、これだからお祭りはやめられないのよねぇ〜♪」

 夕食後のデザートに、あたしとガウリィは屋台の食べ物を全制覇した。
 たこ焼き、イカ焼き、お好み焼き。
 焼きそば、おにぎり、フランクフルト。
 クレープ、イチゴあめ、リンゴあめ…
 (こんなもんで済むはずはないのだが、紙面(?)の都合上割愛。)

 そして、あたしの興味はお遊び系にうつる。
 輪投げ、風船、金魚すくい。
 鉄砲、パチンコ、移動カラオケ…
 …と。わたあめを片手にもったまま、あたしの目がある物体に留まる。
 それは、夜店によくある簡易ペット屋の端っこで、ぷにょぷにょと震えていた。

 「こっ、これはぁっ!」

 半透明の体から数本伸びた、かわいらしい足。
 頼りないゼリーのように、ふるふる震えるその姿は…

 「よっ、お嬢ちゃんお目が高い!最近じゃぁめったに採れない陸クラゲだよ」

 うわぁあ〜!
 陸クラゲだぁ。あたし、欲しかったのよねぇ。誰かに似てるから…とは言わないけど。

 あ、陸クラゲっていうのはね、普通のクラゲと違って、空気中から水分を取り込んで生きていられるクラゲさんなの。人懐っこくて、ふわふわすいすい空中を泳ぐ。
 昔はたくさん採れたんだけど、乱獲のせいで今じゃ数がちょっと少ない…らしい。

 「よっしゃ!買ったぁあ!」

 高かったけど、かわい〜!あたしの肩の周りをふにょふにょ飛びまわる陸クラゲ。
 ガウリィまで「おお、かわいいなぁ!」って、ニコニコしてる。あんたの親戚かもね。

 「あ、そうだ。名前…(当然、ガウリィよねっ♪)」

 「何にするんだ〜?リナ。」

 「(あんたには)ヒミツよっ☆」

 「ちぇっ。なんだよ〜」

 うーむ…しかしこの子、ほんっと〜に、かぁいい。
 あたしが手をだすと、ぽにょんと手のひらに乗っかった。
 ほお擦りしたり、キスしてあげるとぽうっと光る。嬉しいのかな?

 (よしよし、ガウリィ。)ちゅっ。(かぁわいーい♪)ちゅっちゅっ。
 ハタから見てるとかなり怪しいが、あたしはとってもしあわせ(はぁと)。

 こっちを見上げて、ふるふるふるふる。指でつつくとぷにょぷにょぷにょ。
 …乱獲したくなる気持ちもわかるなぁ…「いぢめてください」って感じだもんねぇ。
 そんな事を考えながらぶらぶら歩いていると、小さなお社の前にたどり着いた。

 「おなかいっぱいだし、ちょっとひと休みしよっ」

 「おぅ、そうだな。」

 お社の階段に座って休んでいると、目の前に3人のチンピラ風なやつら。
 どこにでも、こういうのっているのよねぇ。ドラマだと「通行人A、B、C」ってトコ。

 「あんた達何かあたしに用なわけ?」

 「なぁ、あんたさっきペット屋で陸クラゲ買っただろ。それ、返して欲しいんだよなぁ」

 「は?返すぅ?あんた達みたいなのから買った覚えはないわよっ」

 「頭悪ぃなぁ。貴重な陸クラゲ、あんなトコであんな値段で売るわけねぇだろうが。
 買ったやつから、俺たちが丁重にお願いして返してもらうんだよ。わかるか?」

 じゃあ何か?
 もしかして…あの店とこいつら、グルでこの子を使って…!?
 あたしは、ゆらりと立ち上がった。あ、やば。目つき変わってるわあたし。

 「…返さない、って言ったらどうするわけ…?」

 「返してもらうさ。あんただって痛い目見たくねぇだろ?」

 笑う男の手に淡い光。こいつ、魔術の心得があるんだわ。

 「すぐ終わるけど、あんたは危ないからさがってなさい」

 あたしはクラゲのガウリィ(どうもややこしい)に言った。
 横を見ると、すでにガウリィ(本物)が一人目を倒しにかかってるとこで。

 よっ…と。とりあえず、火炎球!
 男は火炎球をまともにくらって思いっきり吹っ飛び、岩場に頭を打って倒れた。

 ありゃ?もう一人はどこいった?

 「バカ、リナっ!後ろだ!」

 遠くから聞こえるガウリィの声にあたしは振り向いた…けど、遅かった。
 さっきの魔術野郎!威力は小さいけど、あの火炎球は避けきれない…火傷かな、こりゃ。

 「…っ!」

 その時何かが、あたしに体当たりしてきた。
 魔術野郎の火炎球はわずかにあたしの髪の毛の先を掠め、飛んでいく。
 あたしは速攻で振り向いて魔術野郎を「レベルの違う」火炎球でぶっ飛ばした。

 でも、誰が?…ふと、足元を見る。

 「ガ、ガウリィっっ!」

 そこには足のほとんどと体の一部が溶けかかっている痛々しい陸クラゲの姿。
 あたしは治癒の呪文を何度もかけたけど治らない。何かが足りないの?

 「そ、そうだっ、水よ!水があれば…ガウリィっ、水っ!」

 陸クラゲも元々海にいるクラゲから進化したもの。体の殆どが水分でできているので、治癒の呪文と共にダメージに応じた水分が必要になるのだ。

 「リナ、そいつが倒れてる脇の岩んとこ!水だ!」

 ガウリィの指の先には、岩場の陰から湧く水らしきものと、その下には水溜り。
 今にも涸れそうに水流が弱い。火炎球の衝撃で水路が絶たれてしまったのだろう。

 「ガウリィ、頑張って!死んじゃだめよ!」

 あたしはクラゲのガウリィを水溜りの上に横たえると、その上に
 湧き水をかけてやり、治癒の呪文を唱えた。溶けかけた足と体が再生をはじめる。

 ぴくんっ。
 ふにょ、ふにょふにょ…

 頼りなくはあるけれど…治った…みたい。

 「よかった、あんた…あたしを助けてくれたのね。ありがとう」

 ふにょふにょ。
 まだふらふらしているが、陸クラゲも嬉しそうにぽうっと光った。

 「うはぁ、なんだかどっと、疲れたわ…」

 「俺もだ〜」

 あたしとガウリィ(本物)は、どちらともなく岩場の湧き水に手を伸ばした。
 両手にすくって、二人一緒にごくごくごっくん、ぷはぁ〜! ごっ、極楽ぅ!

 「おっ、美味し〜!戦闘の後の一服はサイコーねっ!」

 「俺は、腹の足しになればなんでもいい…」

 ぴちょん。
 最後の一滴が水溜りに跳ねた。元々火炎球の衝撃で涸れかけていた湧き水は、
あたし達が飲みまくったせいか、とうとう涸れてしまった。