5羽の白鳥

〜後編〜


 

「条件の期間までには、後半年なかったか?」
 低い声で、ガウリイ王は言います。
 場所は謁見の間...では、なく執務室です。居るのは、国王ガウリイ。宰相ミルガズィア。そして、エルメキアの大貴族の当主の1人です。
ヴラバザードという名のこの当主は、ガウリイとリナとの結婚を強硬に反対した重臣、大貴族達の中で、中心的な役割を果していました。
 当然、その様な人ですから、結婚後半年が経過したにもかかわらず、懐妊の兆候の出ないリナ王妃について、主君たるガウリイに意見を述べたのです。
 即ち、「そろそろ妾妃を召されませ」と。
 それに対するガウリイ王の答えが、先ほどの言葉でした。

「確かに、半年在りますが、王妃さまがご懐妊されるとは限らないでしょう...それに、氏素性の知れぬ者よりも、素性のはっきりした国内の貴族の令嬢を母に持つほうが、王位継承者としては、妥当では在りませんか?」
 ヴラバザードの言葉に、ガウリイの眉が顰められます。
 その様子はヴラバザードからは見えませんが、宰相として側に控えているミルガズィアは、はっきりと見て取りました。
「貴殿らは、ご自分の言った事を反故にすると?」
 丁寧な、それでいて低い主君の言葉に、ヴラバザードは表情を変えません。
「貴殿らは、1年以内に王妃が、懐妊、もしくは子を出産すること...1年が経過してもそれが満たされない場合、妾妃を召す。それで、納得したはずだが....」
「確かに納得いたしました。ですが...」
「なら、妾妃を召せと言うのは、半年早くないか?」
 ヴラバザードの言葉を途中で遮って、ガウリイは言います。
「...半年経ってから、妾妃を探すというのですか?
 それでは、遅いのでは....」
「...下がれ、ヴラバザード」
「....は?」
 二度、言葉の途中で遮られ、何を言われたのか理解できなかったのか、ヴラバザードは問い返します。
「下がれと言った」
 噛んで含めるような主君の言葉に、ようやくヴラバザードは自分が何を命じられたのか悟りました。
「ですが....」
「下がれと言った。これ以上貴兄と話すことは無い」
 断言され、視線を上げれば、ガウリイ王は、最早ヴラバザードではなく、書類へと視線を向けています。
 ヴラバザードは、顔を怒りで真っ赤にしながら、執務室を出て行きました。

「ヴラバザードの奴...」
「仕方在るまい。ヴラバザードはお前の妾妃の世話をして、子が生まれた場合、その子の後見になりたいようだからな」
 呟くように言ったガウリイの言葉に、ミルガズィアが返します。その口調は、宰相というよりも、大叔父の立場から出たものでしょう。
 ヴラバザードが退出した今、執務室に居るのはガウリイとミルガズィアの2人だけです。
「この分じゃ、リナが子供を産んでも、何かと理由をつけて、王位継承権は認められない。とかなんとか言いそうだな」
「...身元ならわかったぞ」
 ため息交じりに言ったガウリイに、あっさりとミルガズィアは言いました。
「へー、身元が......身元がわかった?!」
「そうだが...」
 突然大声を上げたガウリイに、ミルガズィアはいつも変わらずに答えます。
「リナの身元って....?」
 訪ねてくるガウリイに、ミルガズィアは微苦笑を浮かべます。巧く隠しているつもりでしょうが、その蒼い瞳には、期待が込められています。当たり前ですね。王妃としたリナの身元によっては、ヴラバザードは初めとする反対派に対する切り札になります。
「ライゼールを知っているか?」
「ライゼール?セイルーンと国交のある国だろ?確か国王はレゾだっけ?」
 ミルガズィアの問いかけにガウリイは答えます。国王というのですから、他国の国王の名前くらい覚えていなければ可笑しいのですが...いえ、他国の王族の名前を知っていても可笑しくは無いのですが、ガウリイが知っているのは、エルメキアと友好のある国の王族くらいです。友好の無い国の場合、国王の名前くらいしか知りません。
「ライゼールがどうかしたのか?
 エルメキアとは、国交は無いだろう?」
「王妃さまは、レゾ王のご息女。ライゼール王国第一王女だ」
「.....リナが....王女?」
 呟くように、ガウリイがミルガズィアの言葉を反芻します。
「レゾ王が先の王妃との間にもうけた6人の子供。その末娘で、ただ1人の王女だ」
「....じゃあ、なんでリナはあんなところにいたんだ?」
「あんなところ?...ああ。森で会ったとか言ったか」
「ああ。森の小屋で暮らしてた。
 王女なら王宮で暮らすんじゃないか?」
「レゾ王は数年前、周囲の勧めがあって再婚した。
 その再婚相手は、先妻の子供である王子、王女を良く思ってなかったらしい。勿論、表には出さなかったらしいが...
 で、2年前から、ライゼールでは王子、王女を内密に探しているそうだ」
「内密に?」
「どうやら、行方不明らしい」
「じゃあ、リナが森に居たのは....」
「以前、お前が一定の期間、喋らず、笑わず。と言っただろう。
 ひょっとすると....」
 言いかけたミルガズィアをガウリイが、手を上げて制します。
 訝しく思ったミルガズィアですが、執務室のドアに人の気配を感じ、口を閉ざしました。解呪とは言え、呪いだなんて言葉、誰かに聞かれたら困りますからね。
トントンと、ノックの音が聞こえます。
「入れ」
 ミルガズィアが入室を促す声を出すと、一人の娘が入ります。
 城の侍女の服装に身を包んだ娘は、ガウリイの異母妹フィリア付きの侍女です。
「フィリア様が、陛下に御用があるそうです」
「執務中だ」
「至急お越しください。とのことです。王妃さまに関する事だと言っておりましたが」
 素っ気無く言ったガウリイでしたが、王妃に関する事の一言で、ミルガズィアを目配せをすると、執務室から出て行きました。

「こちらです」
 侍女に連れてこられたのは、国王夫妻―つまり、ガウリイとリナ―の寝室でした。
「フィリアの用なのだろう?」
「フィリア様が、こちらにお連れするようにと」
 思わず問い掛けたガウリイに、侍女は何の迷いも無く答えます。
 ノックの音の後に、
「陛下をお連れしました」
 と、侍女が言うと、ドアを開け、ガウリイを寝室へと促します。

 寝室へと入ったガウリイを出迎えたのは、異母妹のフィリアでした。
「フィリア。リナのことで用...」
 ガウリイの言葉が途中で途切れます。
 視線は寝台の上。その上で横たわっている栗色の髪の女性に注がれています。

「フィリア!!リナは?!」
 思わず焦った声を上げる異母兄に、フィリアはにっこり微笑むといいました。
「おめでとうございます。お異母兄さま」

「おめでとう...って....」
 フィリアの言葉に、ガウリイは呆けたような声音で言います。妻が寝台で横たわっているのに、「おめでとう」と言われたのだから、当たり前かもしれませんね。
「ご懐妊だそうですわ」
「懐妊....」
 フィリアの言葉を反芻し...次第に意味がわかったのか、ガウリイの顔に笑みが浮かびます。
「子供が?」
 嬉しそうに言ったガウリイに、フィリアは頷きました。
「お異母兄さまが来られる前に、侍医に見せたところ、ご懐妊だと...」
 フィリアの言葉に、嬉しそうにガウリイは寝台のリナに近づいていきます。
 先ほどまで閉ざされていた紅い双眸が、開かれています。
「ありがとう」
 ガウリイの言葉に、リナはきょとんとしました。
―ありがとう...って、何が?
 実は、ガウリイが寝室へ入って来た時点まで、リナは意識を失っていました。
 フィリアとお茶会をしていたのですが、その最中、倒れたのです。妊娠中だとわかった―フィリアとガウリイはですが―ので、原因は貧血ですが、勿論、リナには知るはずがありません。
 リナが意識を取り戻したのは、ガウリイが焦った声を上げたときでした。それ以外のガウリイとフィリアの会話は、リナを気遣って、声を抑えたものでしたから、リナには会話の内容は聞こえませんでした。
「おめでとうございます。リナさん、ご懐妊だそうですよ」
 ガウリイの後ろに居たフィリアの言葉に、リナは驚きに眼を見開きました。
 次いで、シーツの中で、恐る恐る手を腹部へ当てます。
―あか....ちゃん....?
「リナ」
 呆然と考えていたリナに、ガウリイの声が掛かります。
 視線を向けると、ガウリイが嬉しそうにニコニコ笑っています。
「もう一度言うな。ありがとう」
 ガウリイの言葉に、リナはガウリイの手を取ります。
「?」
 訝しげな表情をするガウリイの掌に、リナは文字を書きます。
『後継ぎが出来て嬉しい?』
 リナの細い指が書き出した言葉に、ガウリイの顔から、笑みが消えます。
 フィリアはそんな異母兄とその妻であるリナをおろおろと見ています。
「後継ぎ....ね。男か女かもわからないのにか?」
『男の子が欲しいの?』
「...なんで?」
『エルメキアの王位継承権は、男子だけなんでしょう?』
「確かに、そうだな」
 王位継承は国によって多々ありますが、エルメキアでは王族直系男子だけです。因みに、ライゼールでは長子相続。セイルーンも同じです。ゼフィーリアは女王国家なので、直系の男子ではなく、女子が継承権を持ちます。
『だから、男の子が欲しいのかなって...』
「リナとの子なら、どっちでもいい」
「?」
 ガウリイの言葉に、リナは首を傾げます。
「だから、リナとの子供なら、男でも女でもいいんだ。元気に生まれてくれさえすれば」
『本当に?』
 スラスラと淀みなく掌に文字を書いていく、リナの細い指が、躊躇いがちにその言葉を紡ぎました。
「嘘なんかじゃないぞ。リナとの子供だから嬉しいし、男でも女でもいいんだ」
 微笑を浮かべて言うガウリイの掌に、
『ごめんなさい』と、リナは書きました。

*  * * * *

 月満ちて、リナ王妃が生んだのは、男の子でした。
 母親に似た栗色の髪。父親と同じ空のような蒼い瞳の王子の誕生に、父であるガウリイ王は勿論、フィリア王妹殿下、宰相ミルガズィアをはじめ、国民にも喜ばれました。民の間では、世継ぎの誕生にお祭り騒ぎです。
 ですが、王妃を快く思っていないヴラバザードを初めとする反対派には、おめでたい事ではありません。

 ヴラバザードは一計を案じました。
 王妃が喋らず、笑わないという事を知ったヴラバザードは、「喋らず、笑わずというのはどういうことか?」と神殿の司祭に訪ねれば、「呪いを解くためか、呪いを成功させるため」という答えが返って来たのです。
 そのため、ヴラバザードは主君に思いを寄せるラーダ侯爵令嬢シルフィールに嘘を吹き込み、王子を攫わせました。ガウリイ王はヴラバザードを警戒しているのか、ヴラバザード自身を王妃に近付けませんが、シルフィール嬢ならば、王の異母妹フィリアの幼い頃の遊び相手のため、簡単に王妃に近付けました。
 リナ王妃とフィリア王妹殿下が、赤子の王子を残し、席を外した隙に、シルフィール嬢は、部屋の外へ控えていたヴラバザードの手のものに、王子を渡します。
 実はシルフィールは、ガウリイ王の王妃を決める舞踏会で、人一倍憎々しげに王妃となったリナを見ていた令嬢でした。リナ王妃失脚を狙っているヴラバザードの計略に乗るのは当然かもしれません。王子に関しても、慕っている国王の子とは言え、憎んでも余りある恋敵の息子ですから、憎んでいるともいえるでしょう。

 王子が行方知れずになり、王宮は騒然となりました。
 シルフィール嬢は、国王ガウリイと宰相ミルガズィアの質問にも、「わたくしが、目を離した隙に、王子様は居なくなられました」と答え、ヴラバザードの計略を進み易くしました。
 秘密裏に王子が探される事になりましたが、ヴラバザードは「王子が失踪した」との噂を流し、更に、「王妃が呪いを成功させるために、王子を生贄にした。その証拠に王妃は喋らなければ、笑いもしない。これは呪いを掛けているためであり、王妃は魔女である」と言う事も一緒に流しました。

 数ヶ月が経過しましたが、王子は見つからず、更に王妃が魔女との噂に惑わされた貴族、民衆が王妃の処刑を求め始めました。
 抑えていたガウリイ王と、ミルガズィア宰相でしたが、あまりの貴族、民衆の勢いに、とうとう抑えきれなくなりました。
 ですが、リナ王妃を心から愛しているガウリイ王が、王妃を処刑できるはずがありません。

*  * * * *

「陛下、我々臣下や民たちは、魔女と噂されている王妃の処刑を求めております」
 場所は謁見の間。玉座を前にしたヴラバザードは言います。
「貴兄は、何故王妃を魔女と言う?」
 ガウリイ王の低い声に、しかし、ヴラバザードは口の端に薄っすらと笑みを浮かべます。
「王妃が...王妃と呼ばれている女が魔女であるという事は、既に噂として流れております。魔女を処罰しなければ、陛下の王権に関わりましょう」
「王権に関わるか?」
「そうです。災厄を招く魔女を王妃にするなど、陛下らしく在りませんな。
 ですから、我々は氏素性の知れぬ女を王妃にするなど、反対したのです」
「...噂に寄れば、王妃は呪いの成就のために、王子を生贄にした。とされているが、生贄にしたはずの息子を思い、泣いて暮らす王妃を魔女だと言うのか?」
「泣いている振りをしているのでは?」
「あれは、そんな器用な真似は出来ん」
「女は化けると申します。陛下がそう思っているだけかもしれません」
「だからと言って....」
「陛下が王妃さまを処罰など、できんだろう。ヴラバザード殿」
 ガウリイとヴラバザードの会話に、それまで控えていた宰相、ミルガズィアが言います。
「宰相閣下も、魔女の処刑には反対ですか」
「ヴラバザード殿は、王妃さまを魔女と断定なさるか?」
「魔女は呪いの成就のために、一定期間、喋らず、笑わずと聞きます。王妃と呼ばれている女は、まさにその状況でしょう」
 ヴラバザードの言葉に、ガウリイとミルガズィアの眼が細められます。実は2人は、城内や町中に広まった噂を流したのは、ヴラバザードだと推測していました。しかし、確証がありません。しかし、ヴラバザードのこの一言で、確証しました。
 ですが....
「今更どうにもなりますまい。王妃と呼ばれている女が魔女だと、皆信じております。信じておられないのは、陛下と宰相閣下、フィリア王妹殿下だけです。
 残念ながら、元老院は魔女の処刑と決まりました。重臣たちや貴族達も同様です。
 魔女の処刑は決定事項です。陛下でも、どうにもなりません。
 それから、新しい王妃には、我々貴族、重臣一同、ラーダ侯爵家のシルフィール嬢を推挙いたします」
 薄っすらと笑みを浮かべ、ヴラバザードは言い切ります。
 視線を上げると、苦々しげな主君と、ヴラバザードをじっと見つめている宰相が居ました。

 魔女とされたリナの処刑は、5日後に行なわれます。
 王女という立場に生まれたリナには、民たちの意向を無視するという事が、どういうことを招くか、理解しておりました。民在っての王家であり、国であるというのが、リナの考えです。
 悲しげな蒼い瞳を向ける夫に、リナはギリギリまでイラクサで上着を編む事を許して欲しいと願い、それを許されました。

 リナが5着目の上着を編み終えたのは、処刑日当日の夜明けの事でした。
―終わった...後は、これを兄さまたちに渡すだけ...ここまで出来て渡せなかったら、意味ないわね。アメリアとの約束果せないじゃない。
 心の中でそっと呟きます。
―あの子は、どこにいるんだろう?....まあ、見つかったら、ガウリイの事だから、大切にしてくれるでしょ....
 そこまで思って、リナは微苦笑を浮かべそうになり、慌てて無表情を装いました。
 行方知れずになる前の、息子の姿が目に浮かびます。
 抱いていると、嬉しそうに笑った赤ちゃん。自分とガウリイの子供...心残りがあるとすれば、行方知れずの息子と、編み上げた上着を兄たちに渡せない事。そして、『幸せだ』と、ガウリイに伝えられない事です。
 魔女だと噂されても、それを信じなかった夫。その異母妹であるフィリア。大叔父のミルガズィア。国中の人々が、自分を魔女だと信じる中で、それでも、リナを信じてくれた人々が居る事が、リナには嬉しかった事でした。
―あ...父さまにも、伝えられなかったな....
 ガウリイとの結婚前、舞踏会で会ったアメリアの言葉が甦ります。
【レゾ王が心配している】
 父であるライゼール国王レゾは、王女という身分で、がんじがらめにするよりも、リナの意思を尊重していました。
 兄王子であるゼロスやゼルガディスと一緒になって、知識を求める事がリナには合っていましたし、女が..ましてや王女であるリナが、兄王子たちと一緒になって、書庫に入り浸りになるのに、眉を顰めるもの達も居ましたが、レゾ王は何も言いませんでした。
 大切にしてくれた父に、何も伝えられない...それを考えると、申し訳ない気持ちが溢れてきます。
 ですが、そんな時間は長くは続きません。
 ノックの音共に、リナの居る独房に、近衛隊長が入ってきました。
 刑場へと行く時刻が来たのです。

 粗末な荷馬車で揺れながら、リナはイラクサで編み上げた上着を握り締めます。
 質素な白いワンピースに包まれた華奢なリナに、道に集った民たちは、ある者は興味津々、ある者は恐怖の混じった眼で、そして、ごく少数ですが、「本当にあれが魔女か?」と、自分たちが信じていた噂に疑問をもつものが居ます。
―このままじゃ、この上着も、あたしと一緒に燃やされちゃうわね...折角編みあがったのに...アメリアとの約束果せないじゃない....
 その思いから、リナの唇からため息が零れます。
 結局編み上げた上着ですが、魔女とされたリナが編み上げていたものを残しておくのを、快く思う人間が居るはずがありません。

 荷馬車が停まります。
 伏せていた視線を向けると、火刑台が既に出来ています。魔女と言えば、火あぶりなのでしょう。
 視線を火刑台から外すと、悲しそうな瞳のフィリアと、感情を抑えるのに苦労しているだろう、ガウリイが居ます。2人から少し離れたところに、満足げな表情を浮かべるヴラバザードが居ますが、リナには、彼が誰だかわかるはずがありません。ヴラバザードの隣には、優越感をその瞳に宿したシルフィールが居ます。宰相であるミルガズィアの姿は見えません。

 荷馬車から降りないリナに、業を煮やしたのか、衛兵の1人が、リナを小突きます。その衛兵の行動に、ガウリイは眉を顰めました。ですが、国王という立場上、何も出来ません。
 火刑台へと向かおうと、一歩踏み出したリナですが、刑場を取り囲んでいた人々からざわめきが起こります。
 リナが視線を向けると、5羽の白鳥がこちらに向かっていました。
―兄さま?
 先頭を飛ぶ、1羽の白鳥は白い包みを咥えています。
―あの包み...まさか...
 1羽の白鳥は、リナの頭上を飛び、ガウリイの前に降り立つと、包みを差し出しました。

 包まれていたのは、1人の赤ん坊。
 栗色の髪。あどけない蒼い瞳は、ガウリイを見ています。
 それは、行方知れずになったガウリイとリナの子供。エルメキアの王子でした。

「処刑は中止だ!!」
 赤ん坊を受け取ったガウリイの声が、響き渡ります。
 ヴラバザードは愕然となり、リナは荷馬車に在ったイラクサで編まれた上着を手に取ると、5羽の白鳥に投げました。
 上着が触れた白鳥は、5人の青年に、姿が変わります。

「ガウリイ陛下に申し上げます。ご夫妻のお世継ぎを隠したのは、あの男です」
 ゼロスが、ヴラバザードを指差します。
「あの男が、部下に命じ、手に掛けようとしたのを僕たちが、お預かりしました」
「お世継ぎをあの男に渡したのは、男の側に控えるあの令嬢です」
 ゼロスに続き、ゼルガディスがシルフィールを示しました。
「お妃は、継母に呪いを掛けられた俺たちを救うため、この3年、喋らず、笑わずの生活を送った」
「今日で、その期間が切れ、俺たちはこうして人間に戻れた」
「俺たちや妹の身元は、ライゼールに問い合わせれば、直ぐにわかる」
 ルーク、ヴァル、ザングルスの順に、妹の無実を兄王子たちは訴えます。

「貴殿らの身元は、既にこちらでもわかっておりました」
 突然刑場に響いた声は、姿が見えなかった宰相ミルガズィアのものでした。
「王子を救ってくれた事に、礼を申します」
 ミルガズィアの言葉に、刑場はシンと静まり返ります。
 白鳥が人間になり、口々に王妃が魔女ではないと言い募ったのですから。

「処刑は中止だ。ヴラバザードとシルフィール嬢の処断は、後日決定する」
 静まり返った刑場に、ガウリイの声が響きます。王としての威厳に満ちた声でした。
「王妃が魔女ではないとわかった。今後、この件に関する王妃に対する侮辱は、国王、ひいては王家に対する侮辱と取る。何人も王妃に対する侮辱は許さん」
 ガウリイの声に、ヴラバザードとシルフィールは顔を青くし、フィリアは安堵の表情を浮かべ、白鳥から人間に戻った兄王子たちは、妹に笑いかけました。

 そして、ガウリイ王は、初めて愛しい少女の笑顔を見ました。

 その後、ヴラバザードは、王子暗殺未遂と王妃に対する不敬罪で処刑が言い渡され、シルフィールはヴラバザードに荷担した罪で、国外追放を言い渡されました。

 ライゼールでは、行方不明の王子、王女の行方がわかり、更に、王女がエルメキアの王妃となったことで、これまで国交のなかった両国に、友好関係が新たに築かれました。
 王子に呪術を掛けたエリシエル妃ですが、既に亡くなっておりました。残っている記録によると、どうやら、王子たちの呪術が解けたと同時に、苦しんで亡くなったそうです。どうやら、王子たちに掛けた呪術がエリシエル妃に返ったようです。

 ゼルガディス王子とセイルーンのアメリア王女との結婚が行なわれ、ライゼールとセイルーンは益々関係が良くなったようです。記録からも、2人が幸せに暮らした事が察せられます。

 ルーク王子は弟を訪ねるという名目で、セイルーンに行っては、ミリーナに言い寄っては振られるという事が繰り返し行なわれていたようです。

 ザングルス王子は、やがてレゾ王の跡を継いだようですが、王妃となった女性が、どう考えても、邪神としかいえない宗教を起こしたらしく、頭痛が収まらなかったといいます。

 ゼロス王子とヴァル王子ですが、エルメキアのフィリア王妹殿下に、一目ぼれし、フィリア殿下を巡って、言い合いが絶えなかったとか....

 ガウリイ王とリナ王妃ですが、お話の王道のとおり、仲睦まじく、子供にも恵まれ、末永く幸せに暮らしたそうですよ。その仲睦まじさに、ミルガズィア宰相をはじめ、回りの女官、侍従があてられたとか...

 

 

 

終わり


 

♪芙嶋海琉さまに頂いちゃったのですvv

このお話を持ってこられたのはさすが!!と思いました。

各キャストもハマってて、美味しいとこ取りのミルさんが素敵です(笑)子煩悩なレゾにも笑いましたが(笑)←どちらも狙っていたわけではなく、消去法で設定されたそうですが(^^)

リナのガウリイに惹かれながらも呪いを絶対に解いてみせるという意思の強さと、ガウリイの一途で、でも王という重圧に苦しむ姿に、切ないけれどでも最後がハッピーエンドで本当によかった!!って心から思いました。

しゃべれるようになった後の2人のらぶらぶ生活を想像すると、物凄く幸せで楽しいですしvv人間に戻った曲者ぞろいの兄さんたち(笑)のその後も楽しそうですよね(^^)

読後がとっても幸せになれる素敵なお話を、本当にありがとうございました♪