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黄昏色に空が染まる、逢魔の時間。
銀髪の剣士を求めて不幸な街NO1のサイラーグへとやって来たオレ達が見たのは、デーモンの大量発生による、雑然とした騒ぎだった。
ようやく復興の兆しが見えてきたというのに……、シルフィールが見たら昏倒ものだな。
そんな事を考えていたオレは、ふいに、風に運ばれてきた気配を感じ取る。
これは……?
「…………。」
「どうした、旦那?」
デーモンが放った魔法からの飛び火で、所々に火の手が上がる街中、炎と共に発生した風に煽られながら立ちつくすオレに、ゼルガディスが訝しげに聞いて来る。
「……リ、ナだ……?」
オレは、猛炎に乗って届いたその不思議な感じを口に出し、言い表してみる。
「何??」
「……リナだ。…リナが、ここにいる!」
口にしてみると、それが至極当然の事のように自分の中に吸い込まれていき、ドコからともなく沸いてくる感覚が、自信を与えてくれる。
「何を根拠に言っているんだ、…って、おい!!!」
そう断言するや否や、もはや一秒も止まっていられないオレは制止する声に振り向きもせず、先程の感覚を頼って騒ぎの渦中へと駆け出した。
「……行っちゃいましたね、ガウリイさん。…どうします?」
「………。とりあえず、この混乱を収めるのが先だろう。」
残されたアメリアとゼルガディスといえば。今更追いかけても間に合わないと思い、街の混乱を静めながら街を回り、彼を探せば良い。…そう結論付けたのだった。
わたしとゼルガディスさんが街を回り始めて直ぐ、街を覆う瘴気が濃くなったのを感じ取った。
……魔族ね!
普通の民家が集まる一角に…どこから持ってきたのか、十数のデーモンが咆哮をあげている。
すぐ隣を、同じように駆け出したゼルガディスさんと視線を交わし、彼が浮遊の術で空に消えていくのを確認したわたしは、早速呪文の詠唱に入り、…一番手前の、今にも人家に炎の矢を放とうとしているデーモンに狙いを定めて術を放つ。
「エルメキア・ランス!!」
狙い通りの軌道を描く光の矢に、頭を打ち抜かれ動かなくなるデーモン。
それをのんびり眺める余裕などはなく、直ぐさま次の術の詠唱に取りかかる。
敵味方関係なく術を放つデーモン達。今はまだ水系の術で飛び火を押さえられるレベルだけど、根元を絶たなくては…被害は街全体にまで広がってしまう!
わたしは顔にかかる邪魔な髪を振るってはらい、拳に魔力を込め、…目の前の、何処からともなく現れたデーモンの軍団を凝視する。
最近頻繁に起こるデーモンの異常発生。
対抗勢力があるならばまだいいけれど、そうでない、辺境の小さな村などは……。
早く、何らかの対策を打ち出さなければ、民への被害はどんどん肥大化していく。
……デーモンの突然発生は、今やどの国でも共通の社会問題なのだから。
どぐぃおぉぉぉん!!
丁度三体目のデーモンを倒した時、数メートル先から轟音が届く。
……ゼルガディスさんも始めたようね。
そう、わたし達は戦力を敢えて二つに分け、挟み撃ちにすることにしたの。
それがこの場を片づける一番早い方法になるから。
狂ったように唸りを上げその鋭い牙とカギ爪で力任せに突進してくる巨体を、力で押し返すのではなく威力を剥ぎ取る様に受け流し、バランスの崩れたところに魔族にも効果のある術を打ち込んでいく。
「エルメキア・ランス!」「エルメキア・ランス!!」
倒したばかりの敵の向こうにまたすぐ見える敵に照準を直し、続けて術を放つ。
「エルメキア・ランス!」「エルメキア・ランス!!」「エルメキア・ランス!!!」
「もう一つおまけにエルメキア・ランス!!!!」
一撃一撃の狙いを大切にしたわたしの魔法は、ひしめくデーモンを確実に捕らえていく。
今までこういった場面では、一撃必殺のラ・ティルトを使うことが多かったのよね。
…だって、一撃で悪を倒すのって、かっこいいじゃない!?
でも、こうやって自分一人で多勢を相手にする場合、あの長い術の詠唱は命取りになる。
『術なんて、ようは使いようなのよ』
彼女にそう教えてもらったのは、何時だったかしら。
あの後、色々なことが続けざまに起こったから、正確に覚えてはいない。……でも、『何時だった』かなんて、関係ないのかもしれない。
彼女に遭えたことが、…その事実があれば良いのだから。
初め確認した頭数はとうに超えたというのに、いまだ道路を塞ぐデーモンの一団。
この街に漂う邪悪な気配といい…大元である何かがあるはず…。わたしの中の何かがそう、告げている。
それを何とかしないことには、この騒ぎは止まらない。
……一体、何時まで相手をしなければいけないのかしら……、
そう思いかけてぷるぷると頭を振い、もう1度、街に目を向ける。
何弱気な事を言っているの!敵が何十回と沸いてくるならば、わたしは何十回だろうとも同じ数だけ打ち倒すだけ!!
「ヴィスファラーング!!」
誓いを新たに拳に力を込め、デーモンの群を突っ切ったわたしの後ろには…致命傷には至らないものの、手足をぴくぴくと痙攣させ、動けなくなったデーモンの山ができあがっていく。
よしっ!!今のうちに、一気に片を付けるわっ!!
走りながら唱えていた術の詠唱がようやく終わり、
「……ラ・ティルト!!」
腕を突き出し山積みになったデーモンに狙いを定め、最後に力ある言葉を紡いだ瞬間、視界に飛び込んでくる白い影……。
いけない!…術はもう、発動してる!!
「だめえええええ!!!!」
制止を、と願うわたしの想いを裏切って、完成した術はまばゆい光を生み、あたり一面を青白く染めていく。
ゼルガディスさん!!!!!
街に入った時、真っ先に感じたのは色濃い瘴気ではなく、オレの心を暖めてくれる優しい気配だった。
オレの中に残る微かなその感触を追って、右へ左へと…サイラーグの街を全速で駆け回る。
街を回りながら不思議な感覚でいる自分を観察する。
心臓の音がやけに響くのを、…そしてそれが段々強くなっていくのを感じるのだ。
すぐ目の前に何があるわけでもない、それでも、胸の奥が熱く踊る。
……この先か……!!
オレは優しい風が吹き込んでくる入り口から最も遠い場所、街の北側に狙いをつけると走る速度を上げたのだった。
行き先というか目指すところは決まっているというのに。
再興中であるため思わぬ所が袋小路になっていているのと、大通りを一つ渡る度にぶつかる、どこからか湧いて来たデーモンの群に思うとおりに進むことが出来ない。
逸る身体をなんとか押さえ路を塞いでいた最後の一体を取り除くと、北へ向かい再び走り出す。
しばらく進み五叉路にぶつかった所で、街中を走り出してから初めて足を止める。
呼吸を整え先程から胸を掠めていく感じを思い描き、全神経をそれを追うことだけに傾ける。
閉ざした目の裏に浮かんでくる、閃光のイメージ。
左手で何かが衝突しているのを感じ取る。…オレは迷わずそちらに進んでいった。
交差する細い道を無視してひたすら直進すると、今度は噴水のあるちょっとした広場にぶつかった。途中何かが争う音を聞いたんで、リナがいる可能性を願ったが、…それは、自警団と思しき団体がデーモンの群と攻防している場面だった。
昔からよくよく魔族と関わっているこの街を再々興させようってことで、自警の組織はそれなりに整っている。指揮系統の整った攻撃に、一匹一匹だが確実にその数は減っていく。…デーモン相手に、善戦していると言って良い。
先を急ぎたいのはやまやまだが、やはり放っておく訳にはいかず、その輪に加わりデーモンにかかっていくことしばらく。その場に居るデーモンの根絶のめどが立ち始めた頃、一際心臓が強く鳴った。
(……どうした?)
敵を忘れた一瞬に、すぐ傍を囲っていたデーモンが鋭い牙でのしかかって来る!
…が、オレはそれを冷静に受け止め、振り向きざまその反動を利用して切り返す。
血しぶきも出さずに崩れ落ちるデーモン。
自分の周りに築かれたデーモンの山を抜け、先程の感触を確かめようと頭を振った……そのとき、
………それはとんできた。
一瞬だけ舞い降りた、銀色の風。
見間違いではと、瞼をしばたかせる事、数回。……風は、消えることなくそこに留まっている。
黒いマントをなびかせ“銀色の剣士”の呼び名に相応しい風格で。…地面に突っ込んだ衝撃が残るのか、白色のレイピアで体を支えている。
吹き飛ばされてきたってことは、あちらも戦っているという事だ。…恐らく、かなりの上物と。
(一緒に行って、力になりたい!)
具合を尋ねたがこちらを振り向く事もなく飛び去ってしまったその影を、直ぐさま追いかけたかったけれど、この場を放置して行く訳にはいかない。
……彼女に会うためには。
オレは風が吹き抜けて行った方に背を置き紅い龍の剣を構えなおすと、風が降り立つ前とさして変わらぬ数がひしめく広場へと突っ込んでいった。
分散型へとアレンジを加えて放った術が、味方に当たるという最悪の状況に、狙いを付けるために突き出した腕を抱え込み、わたしは静止を求めて悲鳴を上げる。
だけど、…魔法とはそれくらいで軌道の変わるものではない。
そんな判り切っている事が、…ずっと昔、魔道士協会で習った事がいやに冷静に頭をよぎっていく。
直撃すれば上級の魔族にさえもダメージを与えられる精神系魔法。
わたしが今唱えたのは、それの最高の位に位置する攻撃呪文。
……人間の精神なんて………。
その場に冷たく走る蒼い光にその威力の程を見たような気がして、わたしは崩れ落ちる体を止められなかった。
術の効果が消えた後もそちらを向くことが出来ず、…まだデーモンを一掃できたわけではないけれど、そんな事は頭から完全に抜けおちたわたしはその場に立膝をついたまま、途方に暮れる…。
そんなわたしの耳に入ってくる、何かが地面を踏みしめる音。
「……おい、ボケっとするな。まだ敵は残ってるんだぞ!」
………そんな!?…あの術を食らって、無事なはずっ、……でもっ!
「ほら、何をしている。」
全ては幻聴かと、その声も幻と思ってしまったわたしを、その人は優しくおき上がらせてくれました。
…あぁ、……この温かさは……。
「……ゼルガディスさん!!」
「惚けている暇はない、いくぞ!」
「はい!!」
わたしとゼルガディスさんは肩を並べて立ち、同時に術の詠唱を始める。
さっきと同じ…精霊魔法、最強の術を。
前回の旅が終わってから密かに研究していたこと。
……それは、対個人用であるこの術を広範囲用に転換させる事。
困難はもちろんあった。
でも、何事もやってみるもので…結果、炎の柱を分散させる事で効果範囲を伸ばすことに成功したの。
その分威力が半減してしまうというネックが出てきたんだけれど、そこはわたしの正義を貫く信念と…ゼルガディスさんから頂いた助言のおかげで、見事に克服!!
そう、人間のキャパシティではたいした力を生み出せない。…術を分散させればなおのこと。
……だけど、複数人の魔力を合わせることができれば……話は変わってくる。
その為には術の詠唱も、精神集中の為の予備動作も完全にシンクロさせる必要があるけれど。
威力は多少元の状態より劣るものの、限りなくオリジナルの状態に近づく事が判ったの。
今回の旅では多数の敵と一度に戦うことが多々あって。わたしとゼルガディスさんの連携は仕上がっている!!
何体かの動けるデーモンがやっきになってカギ爪を振り下ろすけれど、二人掛けの術の障壁にそのことごとくが弾かれていくのが目に入る。
…健気に再興を目指す街にはびこる悪党どもよ、覚悟なさい!!!
「「…我が魂の内に眠りしその力 無限より来たりて 裁きよ 今ここに…」」
特殊な意味を描く印が終わり、最後に術を発動させる方向を手の平で指し示す。
「「ラ・ティルト!!」」
ゴッゴォォォォォォォっ!!
わたし達の集中力や、かつて魔道都市と言われたこの街にはやはり何かあるのか、今までで一番強く同調できたわたし達の指した場所には、怒涛のような光の洪水が押し寄せる!
始めて見るその威力に少し気後れしたけれど、辺りのデーモンを一掃できたことに、ほっと胸をなでおろす。
「よくやったな。」
「はい!………あの、」
残党の有無を抜かりなくチェックを始めるゼルガディスさんを呼び止め、問答無用でその場に座らせたのは、復活の呪文を唱えるため。
だけど、そんなわたしの腕はゼルガディスさんによって優しく制止をかけられる。
何故かと目で訴えると、ゼルガディスさんは半分照れたように笑った。
「要らん魔力は使うな。」
「で、でも!」
なおも食い下がるわたし。
だってあの術を放ったのはわたしなんだもの。そのままにしておくなんて、正義に反するわ!
「……あぁ、あんたには俺が術を食らったように見えたんだな。しかし実際は掠りもしてないんだ。」
いつの間にコントロールを覚えたんだか、と深く感心しているゼルガディスさん。
「こちらも、不意を付かれてそこそこ追いつめられてたからな。あの場で発動させていなかったら、それこそ危なかった。…良い読みだった。」
こんとろーる?よみ???
「えっと…??」
「…おいおい。まさか、あそこに俺が来るとは思ってなかったとか言うんじゃないだろうな?」
顔が固まったように、さっきからずっと深刻な顔をしているわたしを解きほぐすためか、軽く、冗談のように言うゼルガディスさん。だけど………。
「…はい。もうだめかと思いました。」
「………、なにぃ???」
正直に話したわたしに、今度はゼルガディスさんの顔が…当然だけど固まった。
「だって!まさかゼルガディスさんが飛び出してくるとは思わなくって!!」
もし、コントロールできずに直撃していたら……。
「…………………………………………。」
わたしの言葉の意味するところが分かり、今更ながらに青くなるゼルガディスさん。
「……でも、」
これだけは確信を持っていえること。
「…でも、わたしの所為で貴方を殺すなんて、例えわたしの意思に反するところだとしても…絶対、嫌です!」
言いきったわたしは晴々としたのに対し、ゼルガディスさんの頬は今度は赤くなったようだけれど、…わたしはそれには気づかないことにしました。
その後、騒ぎの片付けをしながら考え事をしていたようで、ゼルガディスさんも暫く黙っていたけれど。
やがて言ったのは、
「いくぞ。」
の一言で。
わたしも、目一杯の笑顔で受け答える。
「はいっ!!」
そうしてわたし達は当初の決定通り、事件の中心を探して街の散策を再開した。
街を覆う、真っ黒な空気。倒しても倒してもどこからか沸いてくるデーモンの群。
でも、丁度ゼルガディスさんと併せて呪文を唱えたあたりからデーモンの発生がとまっていた。周りを見れば、街の空気も既に清浄な物へと変わっている事にも気がつく。
…それは、この街のどこかで誰かが正の気を放ったからに違いない。
あれだけの負の力を一気に換えることができるなんて、相当な力の持ち主に決まっている。
……ガウリイさんが言ったように、この街にリナが来ているのかしら?
希望を込めて、街中を進みながらそんな事を考える。
ねぇ、リナ。貴女は今、どこにいるの?
別れて久しい彼女を思い浮かべ、誰にともなく語りかける。
わたしね、
…貴女に逢って、これでもわたし、変わったと思うの。
良くも悪くもわたしを縛る王族の血。
でも、貴女との旅を経て…今はセイルーンの王家に生まれた事を、何よりも誇らしく思うわ。
わたしだけに出来る事があるんだもの。…旅を通してよぉくそれが判ったの。
限界なんて、あってないようなもの……そうでしょう?
…自分の限界を決めるのは、他でもない自分自身。
もう駄目だって、もうできないって、そう考えたら、可能性はゼロにる。
……本当に、そうね。
いつも新しいことに挑戦していく貴女。
誰にも、…自分にも負けない……リナ。
貴女に会いたい、…会って今のわたしを見てもらいたい。
少しは成長したと思えるわたしを。
変わったとしたら、貴女のお陰だと、…その事を知ってほしい。
次の段階に進む為に。
わたしはそんなことを考えながら歩いていると、魔道士協会の先の角を曲がったところで、ある人影にぶつかった。
……あれは!?
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