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――――あたしは宿屋のベッドの上で、いつまでも寝つけずにぼんやりと天井を眺めていた。
◇◇◇◇◇
ここんとこずっと、あたしたちは以前のように2部屋取って別々に寝ていた。
・・・・・あたしとガウリィが、その・・・『保護者』と『被保護者』の関係から『男』と『女』の関係になってからすでに一ヶ月以上経っていた。
ずっと好きでガウリィもあたしを好きでいてくれたのがわかって。想いを伝えあって口付けを交わし、そして結ばれた。
それ以来徐々に2人部屋を取る回数が増えて、求められるままに一緒に夜を過ごしてきていたのだけれど・・・
一週間くらい前かな。
ちょっとしたことで喧嘩しちゃって、その夜は別々の部屋を取って1人で寝て。
次の朝には、いつものようにガウリィが喧嘩してた事も忘れてたから、そのまま何ごともなくいつもと同じように過ごしていたんだけれど。
・・・・その日から、ずっと別々の部屋。
喧嘩が続いてるってわけじゃないと思う。
ちゃんと目を見て話せるし不自然な感じもしないし。
キス、は。してくれる、し。
宿の交渉は基本的にはあたし。2人部屋にしたい時は横からガウリィが口出して、〈強引なおねだり〉にあたしが折れてしぶしぶ取ってあげる、てのがパターンだったんだけど。
あれからは何にも言ってこない。いつもちらっとガウリィを見ても、ニコっと笑うだけで口出ししてこないから、結局1人部屋を2つ。
・・・・あたしから2人部屋取るなんて、恥ずかしくって出来ないしさ・・・
そりゃね、そーゆー気分じゃない時だってあるし、1人でゆっくり過ごしたい夜だってある。魔道書読んだり、盗賊イジメに行ったり・・・って、これは相変わらず止められちゃうんだけれど。
夜にお互いの部屋を訪ねる事だってある。
たわい無い話をして、お茶や軽くお酒飲んだりして。
でも、それだけ。
『保護者』に戻った顔と声で「おやすみ」って言われると、それ以上何も言えなくなって、「おやすみ」って部屋に戻るしかない。
・・・・もやもやした心を封じ込めて。
だから最近、夜が寂しい。
今までは当たり前だった独り寝が、こんなに寂しくて心細いなんて。
何で求めてくれないの?ガウリィ。
もう・・・あきちゃったのかなな・・・
あまりにも、子供体型だから。あたしじゃやっぱり物足りなくなったのかな・・・
でも、キスはしてくれるし。
抱きしめてもくれる。
大切に守られてるんだなぁって、実感出来る熱い眼差しと共に。
だから余計に、わからない。イライラしてむずむずして、寂しい。よく眠れないし。
ガウリィの気持ちが見えなくて・・・・結ばれる前よりも何を考えて何を思っているのか全然わからない。
少しは近付けたと思ったのに。
・・・・わからないよ・・・ガウリィ・・・
◇◇◇◇◇
――――コンコン
「どーぞ」
「やっほぉ、ガーウリィ♪」
扉が開くなりあたしはガウリィの部屋に入り込みドサッとベッドにダイビングした。
・・・・手にワインの瓶を持ったまま。
「リナ?・・・お前さん飲んでるのかぁ?」
「えへへ〜♪一本空けらった♪おいし〜よ。ガウリィも飲も♪」
ひらひらと瓶を振って上目ずかいでガウリィを見上げる。
「げ・・・そりゃ飲み過ぎだぞ」
「らーいじょーぶらって。ガウリィにもわけだげうから、飲もーよ」
「・・・ろれつ回ってないだろ、すでに」
ため息をつきつつガウリィがあたしの手から瓶を取り上げて、自分もベッドの隅に座り込む。ギシっと軋んで身体が僅かにガウリィの方へ傾いた。
――――もちろん、酔っぱらってなんかない。
グラスに2杯程飲んできたから多少の影響は受けているけれども、意識はハッキリしているし、本当はろれつだってしっかりしてる。
酔っているふりしなきゃ、こうでもしなきゃガウリィの側にいられないんだもん。
「珍しいな、お前がこんなに飲むなんて」
前髪を優しくかきあげてくれる手が無性に嬉しい。今なら思いきって甘えられるような気がした。
「らってさ、寝れないんらもん」
1人で寝るのが寂しいんだもん。こんなこと、口では絶対に言えないから・・・ ねぇ、気付いてよ?
猫のように目を細めて大きな手を感じる。
ちょっとごつい、でもあたしを守ってくれる暖かい手。
『目は口程にものを言う』ってよく言うけど、ガウリィの場合は目だけじゃなくてこの手からも気持ちが伝わってくるような、そんな暖かさがあった。
いつからだろう。
この手に触れられると安心出来るようになったのは。
ちょっと前まではドキドキしたり、子供扱いされてるようで嫌だった時もあったのに。
今じゃ、触れられてるだけでこんなにも嬉しくて。
「ガーウリ♪」
ガウリィの手を取って抱き込みながら頬をすり寄せた。
大好きな手。
大好きな人。
だから、ねえ?
髪だけじゃなくて、もっとあたしに触れてよ?
ねぇ、ガウリィ?
ガウリィの瞳をじっと見つめているうちに、彼の顔が微かに赤らんだ気がした。
「・・・リナ・・・・」
柔らかい。あたしだけに聞かせてくれる、あたしを呼ぶ声。
もっと聞きたくて、あたしはそっと目を閉じた。
「こら、寝るなら自分の部屋に戻って寝ろよ。寝付くまで一緒にいてやるから」
・・・・・・・ちょっと、ガウリィ?
この状況でどうしてそういうセリフが出るのよ。
「やら。ここで寝る」
むくれて、ガウリィから顔を背けてぎゅっと毛布にしがみついた。
「んじゃ俺がお前の部屋で寝ていいのか?」
「らめ」
ふうっと、降ってくるため息。
・・・・何で伝わらないの?一緒にいたいのに。
いら立ちと寂しさがごっちゃになって無意識のうちにガウリィの服の裾をきゅっと掴んでいた。
「リナ」
子供をあやすような口調。元の、前の保護者の声。
何でよ、バカガウリィ。
いつもは悔しいぐらいあたしのことわかってくれるのに、何でわかってくれないのよ。
「・・・・ここが、いいの」
急にぐいっと身体が持ち上げられた。
ガウリィの服の裾を握ったまま、ベッドに座った彼の膝の上に降ろされる。
後ろから抱き締められて、心臓がとくんっと跳ね上がる。
覗き込まれた瞳があまりに近いから、反射的に目を閉じた。
「・・・んっ・・・!?」
いつの間に飲んでいたのか、重ねられた唇の隙間から流れてくる、あたしの持ってきた果実酒。
甘い、熱い液体が染み込んできて、あたしの意識を酔わせていく。
長いキスが終わった時には、あたしの息は乱れ瞳は潤んでいた。
でも、それ以上は何もしてこない。
何で?ガウリィ?
あたしは何も言えず、ずっとガウリィの瞳を見続けた。
ガウリィも何も言わない。
ただ、2人でお互いの姿が写る瞳を覗き込み。見えてこない気持ちを探っていた。
――――長くたゆたっていた沈黙が、ガウリィの微かな笑みに揺れる。
「言ってみな、リナ。俺が欲しいって」
耳もとで囁かれた言葉に、あたしの背筋を何かが走り抜けた。
「な・・・ガウリィ・・・?」
抱きしめていた身体を離して少し距離を取ると、あたしと同じ視線で再び見つめあう。焦がれて、でも耐えている。そんな眼差し。
「俺だけがどんどん好きになってく・・・」
「・・・・ガウリィ?」
「俺はいつだってリナの側にいたい。いつだってリナが欲しい。リナの事はわかっているつもりだけどな、俺だって不安になる時だってあるんだぞ」
そこにいるのは保護者を自称していたガウリィでも、いつものクラゲでも、男気に溢れたガウリィでもなかった。
まるで子供のような、初めてあたしの前で弱音を晒している、等身大のガウリィ。
「求めれば渋って照れてもお前は俺を受け入れてくれる。だけど、本当はどうなんだ?」
「・・・どおっ・・て・・・」
「リナから一度も求められたことないだろ?俺は男だからさ・・・女のことはわかっているつもりでもやっぱりわからん」
「・・・・!ガウリィ・・・」
――――もしかして、ずっと考えていたの?
あの時、喧嘩した時。
(「女心ってもの、全然わかっちゃいないんだからっ!」)
・・・・って、怒鳴った一言を。
「ばか」
呆れを含んだあたしの声に何か返すより先に。
あたしは両手を伸ばして、ガウリィの首を引き寄せると、キスをした。
「・・・・リナ」
「ほんとにクラゲ。何らしくない心配してんのよ。あたしがそんな事言えないってわかってるでしょ?」
「わかってるつもりだけどな」
「本当に嫌な時は呪文でも何でも唱えて吹っ飛ばして拒むわよ。でも、そうしなかったでしょ?」
情けなさそうな瞳が主人に怒られてうなだれている犬のようで、愛おしさが込み上げてくる。
ほんとにクラゲ。
・・・・でも、あたしもそんなクラゲ頭がうつってきたかも知れない。
男と女。その性別の違いにちょっと戸惑っただけ。
ガウリィの事はわかっているつもりでも、男心が理解出来なかったのは、あたしも同じ。
でも、理解出来なくてもいいのかも知れない。
問題なのは、理解しようともしない態度。
一方的な感情と欲望を押し付けられるのが嫌だと思っただけで、ガウリィが嫌だったわけじゃ決してない。
「・・・・嫌じゃないよ・・・ただ、恥ずかしくて自分からは言えないけど」
他のどこよりも安心出来るガウリイの腕の中。
素肌で寄り添うと言葉以上に心が通じ合う気がして、2人で求め合う快楽も、彼とだから気持ちがいい。
「だから・・・この一週間・・・寂しかったんだからね」
性別の壁。男と女の本能的な違い。
それは完璧にわかりあえるものじゃないけれども。
お互いがお互いの事をもっと知ろうとすることで、今以上の信頼と愛情が生まれてくるはずだから。
「・・・ガウリィ、が・・欲しい・・・よ」
顔を真っ赤に火照らせて、それでも視線を逸らさずにやっとのことで告げた言葉に。
ガウリィが本当に幸せそうに、笑った。
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