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「っかー・・・派手に壊してくれたわね」
マンションの周りにおびただしく散らばる瓦礫。うちの門番にビビる事なく、なおかつそれを粉々に出来るのは。
「ビンゴ、ね」
なら、こっちも手加減なんかしない。
「リナさん、あの人です!」
アメリアさんが指差した先には1人の男。黒いゆったりとしたパーカーのフードまでかぶってる、細身の無表情な男だ。
そして感じる。
同じ気配がいくつもマンションを取り巻いているのが。
「リナっ」
ガウリィの声にはっと身体を躱す、と、避けたその場所に向かって氷の矢が飛んでくる。
それが合図だったようにわらわらと同じ男が姿を現わした。
「ガウリィ。額に宝石つけているのはコピーよ。悪人とコピーに人権はない!光で斬れる!あたしはオリジナルを探すわ」
「わかった」
あたしの言葉を受けてガウリイが走る。
「アメリアさん。魔法は知ってる?」
「えっ・・・はい。知識として知ってます」
「あの男たちは歪められた魔法の力で作られた人工の人間。コピーなの。だからオリジナルと気配が一緒。行動パターンもプログラムされた機械と同じ。考えるという事ができない存在よ」
「そんな事が・・・?!」
「決して用いてはいけない力なんだけどね」
この世界が。一度滅び去った世界の上に築きあげられたものだとしたら。
そんな誰も確認しようのないおとぎ話が本当の事だと実証されてしまった。
遥か昔。歴史にその名を残す考古学者、レイ・マグナスの手によって。
眠りについていた遺跡は研究のもとにその封印を解かれ、現在に蘇ってしまった知識がある。
その1つに『魔法』があった。
空想の産物でしかなかった『魔法』。自在に宙を飛び、炎や光を呼び出し、意のままに操る不思議な力。
誰もが扱えるというわけではないが、今では考古学の分野で1つの学問として密かに研究されているのだ。
「火炎球!!」
二手に分かれた男たちが一斉に向かってくる。そこにあたしは炎の固まりを出現させ男たちにぶっ放した。
悲鳴をあげる事なく燃え尽き消える二人。
「・・・・・リナさん、“ウィザード”なんですか?」
驚きの目で見つめてくる彼女。普通は怖がったり怯えたりするのに、やっぱりあたしの見立て通り。この子ってば図太い。
「そうよ。そしてこいつらもオリジナルがウィザードらしくて魔法を使ってくるわ。上手く避けんのよ」
「わかりました」
そしてやっぱり頭の回転も早い。
あたしと背中合わせになって死角を埋める。瞳にあるのはまごう事なき闘志。自分の身は守れるってのもあながちはったりではなさそうだ。
「さっさと決着つけてお家騒動ごと終わらせるわよ」
「はいっ!」
元気良く返事を返す彼女に思わず笑みが浮かんだ。
「光よっ!」
素早い動きで男たちを翻弄し、かぶっていたパーカーのフードを巧みにすべて取り外したガウリィが吠える。
懐から取り出した古びた剣の柄。力強い彼の叫びに呼応して闇を切り裂く光の刃が出現した。
額に赤く煌めくコントロール用の宝石をつけた男たちが、恐怖を感じる事も逃げ出す事もなく口々に呪文を唱えガウリィに向かっていく。
「うおおおおおっっっ」
放たれた氷や火の矢を次々に切り落とし、なぎ払っていく。その超人的な彼の動きについていける者はいない。斬られたコピーたちは血を吹き出す事もなく、まるで蒸発するかのように光に溶けて消えていった。
パンっ!
アメリアさんが手を打ち鳴らした。軽く頭を下げると身構える。
「はっ!」
ずどっっ!!どすっっ!
気合いを込めた鋭い回し蹴りが男の延髄を直撃。たまらず倒れた男のみぞおちに正義の鉄拳が綺麗に決まった。2つともいい感じに入ったのでさすがにぴくりとも動かない。
「心を持たぬ哀れなる者たちよ!せめてわたしの正義の拳で成仏させてあげます。さあ、かかってきなさいっ!」
・・・・・なんつーか・・・やっぱり血は争えない。この子は間違いなくあのフィルさんの娘なのね・・・
かなりの拳法を扱えるようだ。動きに隙がなく小さい身体ながらくり出される拳はかなり重い。
自分が狙われてるにもかかわらず恐れなかった訳だ。
って、二人の実況をしてる場合じゃない。
「烈閃槍」
生み出した光の槍に貫かれて男が一瞬動きをとめる。この術、生命体の精神を破壊するもので、普通の人間相手ならば心神衰弱に陥るが命には別状はない、はずである。
しかし、コピーたちは。
光の剣に斬られた者と同じく。光の槍に貫かれた場所からもろく崩れて消えていく。
・・・・・造られた偽りの命。不安定な自身の状態。
自らの意志も持てずコントロールされるだけの、人形のような哀れな存在。
倒す事にためらいはないが、いい気分なわけがない。
「えぇーいっ、まとめて吹っ飛べ!爆裂陣!!」
円形に迸った力が触れたとたん吹っ飛ぶ男たち。
「・・・・こらリナ。程々にやれよな」
「だってめんどくさいんだもん」
呆れた声にベーと舌を出しておいてフぅと一息。15人程いたコピーたちはほとんど倒した。後はこいつらを操っていたオリジナルを見つけてしばき倒すだけなのだが。
「・・・・・何者だお前たち・・・・」
―――――お約束通りで大変結構。
声は空の上から振ってきた。探すまでもなく出てきてくれたオリジナル。着ている服はコピーたちと一緒。けれどパーカーのフードで顔を隠してはいなかった。当然額に宝石はついてない。
それが地なのか無表情な顔にボソリとしたしゃべり方。ったく、暗い奴。確かにストーカーに間違えられてもおかしくないわね。
「知りたいのなら自分から名乗りなさい」
「・・・・・・グルムグン・・・・」
「意外に素直ね。あたしたちは何でも屋よ」
名乗ったからってあたしたちも名乗るなんて約束してないもんね。
「・・・・・“ウィザード”に古代魔器の使い手・・・・ただの何でも屋ではないな・・・」
「見れば誰だってわかるわよ。そんなことよりあんたを雇った人の事、じっくり教えてもらうわよ」
「そうです!金銭に目が眩み悪に魂を売り渡したこの行いは許し難しもの。けれど己の罪深さを反省し素直に白状するのであれば情状酌量の余地はあります。さあ、降りてきなさい!」
「・・・・・・いつの間にそんなとこ登ったんだ?」
驚いたガウリィの声。そういえばアメリアさんの声も上から降って・・・・
「・・・・何やってんの、アメリアさん?」
振り仰げばあたしたちのマンションの屋上からビシッと男に向かって指をさしているアメリアさん。たかが3階建てのマンションとはいえ、いつの間に登ったんだろ。
「悪の親玉と対峙する時には、正義のヒーローは上から登場すると決まっているのです!」
―――――どうやらこの子のヒーローかぶれは筋金入りらしい。
「降りてきなさいって言ったあんたが上にいちゃ意味ないでしょうが。ほら、降 りといで」
・・・・・多少頭が痛くなったのは仕方ないが・・・
「・・・・何であれ本来の目的を果たしてしまえばいいだけのことだ」
いけないっ!
「アメリアさんっ」
「よけろっ」
「氷の矢」
あたしたちの叫び声とグルムグンの魔法が交差してアメリアさんに向かう。
「うきゃああっっ」
さすがにオリジナル。コピーたちが放ったのとは比べ物にならない威力の氷の矢がアメリアさんに降り掛かった。しかも避けようとした拍子にバランスを崩してアメリアさんが屋上から転げ落ちてしまった。
「リナっ」
「魔風」
落ちてきたアメリアさんに向かって魔法の風を叩き付ける。落下のスピードを相殺させて、回り込んだガウリィがしっかりと受け止めた。
「・・・・し、死ぬかと思いました」
「大丈夫か?」
「いきなり魔法ぶつけられて息出来なかったんですよぅ」
「助かったんだから細かい事言わないの!」
何ごとも多少の犠牲はつきものである。それにアメリアさん頑丈そうだし。あのくらい大した事ないでしょ。
「翔封界」
あたしは風を身体に纏いつかせると宙に浮かぶグルムグンに体当たりを仕掛けた。慌てて避けようとするが起動力の高いこの術から逃げられる訳がない。
どがしゃーーーんっっ
派手な土煙を巻き上げて地面にめり込むグルムグン。向こうも風の結界纏ってるんだからこのぐらいじゃ死にはしない。脳震盪ぐらいは起こしてそうだけど。
「よっ、と」
あたしが地面に降り立つとガウリィが手際良く彼を縛り上げていた。
「後は口を割らせて国際警察に引き渡せばお終いね」
「すごいです、リナさんっ。空まで飛べるなんてっ」
「まーねまーね♪」
出迎えたアメリアさんにVサインを返しておいてガウリィと手を叩きあう。パンっと気持ちのいい音が響いた。
「思ったよりあっさり片付いたな」
「そーねって、だから髪が痛むってばっ」
いつもの笑顔でくしゃくしゃと髪を掻き回せてくる手から逃げて、ホッと一息ついた。
「これでわたしの方は一件落着ですね。後はセイルーンに帰って諸悪の根源を断絶しなければ!」
「まだ終わってない」
突然、第三者の声と共に炎の矢がアメリアさんの後ろに迫る。
「はあっ!」
人間離れした動きで彼女の前に出たガウリィが再び光の剣で炎の矢をたたき落とした。
「誰っ」
「その声はまさかアルフレッド!?」
アメリアさんの叫びに新たな男がマンションの影から現れた。
「知り合いなの?」
「・・・・・わたしの、いとこです・・・」
「・・・・なるほどね」
どうやらこいつがグルムグンの雇い主らしい。
「まったく、邪魔をしてくれましたね」
出てきたのはなかなかハンサムな青年だった。唇に笑みをのせてにこやかな表情。ただし瞳には狂気が宿っていた。
いとこ、ということは騒ぎを起こしてる第2継承者の息子ということだろう。
「奴らにおとなしく殺されてくれれば僕が出てこなくてもすんだのに。身内に殺されるのはいくらアメリアでも辛いだろうからこそ高い金を払って雇ったんだけどね。まったく、使えない奴らだよ」
「何故?アルフレッド。国を混乱に陥れわたしを殺そうとするなんて。冗談にもほどがあります!」
「冗談じゃないさ。いずれ僕が王位につくのに君たちの存在は邪魔でしかない。それともアメリア、君が僕の妻になってくれるというのなら殺さなくてもすむよ。その場合、国事に口を挟まないよう喉を潰させてもらうけどね」
ギリっとアメリアさんが歯を軋ませたのがわかった。皮膚が破けそうな程固く握りしめられた拳が微かに震えている。
怒りに顔を紅潮させている彼女の瞳には深い悲しみが宿っていた。
年も結構近いであろういとこに、こんなにも激しい憎悪を叩き付けられて。きっと信じていたに違いないのに。
「んで?あんたは王位について何をしたいってのよ」
油断なく身構えるガウリイとアメリアさんの一歩手前に出てあたしは彼を挑発する。こーゆーバカがあたしは一番嫌いなのだ。
「ふっ。中立の平和主義を歌っているからセイルーンはこれ以上発展しないんだ。国の為にも軍事力を整備・強化して領土を広げ、さらには世界中を統合し豊かな国にしてみせる」
「――――本当に二流ね、あんた」
フンっと鼻で笑ってみせあたしは軽く腕を組んだ。
「あんたが王位についたところでそんなバカな事言っている人間に誰が従うってーのよ。お家騒動起こしたってだけで国際社会から批難浴びるのもわからないおぼっちゃまは、一度痛い目見た方が頭ハッキリするんじゃない?」
「な、なんだとっ!無礼者めっっ!セイルーンの王族によくもそんな口をきいたなっ」
「そーゆーとこがおぼっちゃまなのよ。あんたに一国を賄える力量はない。あきらめなさい」
「貴様っ!」
アルフレッドから笑みが消え殺気がむき出しになる。懐から拳銃を取り出すと銃口をあたしに向けた。
「これは普通の銃じゃない。鉛玉の変わりに特殊な方法で攻撃魔法を封じた銃弾を装填してある。3人が一瞬で消え去るようなやつをね!あの世で己の失言を悔いるがいいさ」
「悔い改めるのはあなたの方よ、アルフレッド!」
アルフレッドの指が引き金を引こうとしたその瞬間、ガウリィの手首が閃いて投げた小石が彼の手に直撃し銃を取り落とした。
はっと顔を戻した彼の顔にアメリアの正義の鉄拳がのめり込む。
大きく仰け反りそのまま仰向けに倒れたアルフレッドに向けてつぶやいたアメリアさんの囁きは、暗闇に溶けてあたしの耳には届かなかった・・・・・
ぷるぷるぷる・・・ぷるぷるぷる・・・ぴっ
「あ、もしもし、ワイザーのおっちゃん?あたしあたし。あのね、セイルーンの、そうそう。その首謀者とその他1名とっ捕まえたから引き取りに来てくれる?え?たまたま依頼受けただけだって。あと、セイルーンのお姫さまここにいるから、ついでに国に送ってあげてよ。うん。後は任せるから。ん?あははは・・・んじゃよろしく」
ぴっ。
「明日引き取りに来るって。これでセイルーンの方も大丈夫よ」
振り返ってウインクしてみる。ぎこちない笑顔を返しながらアメリアさんが首を傾げた。
ちなみにアルフレッドとグルムグンはぐるぐる巻にされて猿ぐつわをされた上、うちの門番、バラバラにされたゴーレム君を復活させて、左右の手で抜けだせない程度の力で握られている。これで万が一でも逃げ出す事は出来ないだろう。
「今のどなたです?」
「国際連邦警察特別捜査官特殊技能捜査室室長」
「・・・・・よく一気読み出来ましたね」
「まぁね。通称《マギ》のあたしの元上司よ」
さらっと、何気なく告げたセリフに、今度こそアメリアさんが言葉を失った。
さすがに王族。その存在を知ってるってことね。
「とにかく。そーゆーことでこの事件は終わったわ。後の始末はあなたが国でフィルさんとやるべき事をするだけ。がんばんなさいよ。正義は必ず勝つんでしょ」
「――――はいっ」
はっきりと答えた彼女の顔に広がる笑み。それは底なしに明るいものでは決してなかったけれども。
彼女は絶対に負けはしないだろう。
◇◇◇◇◇
[・・・・・首謀者が国際警察の手により逮捕され、国内の争乱は鎮火の一途を辿り、また国王の病状も回復の兆しが・・・・]
紅茶の暖かい湯気が立ち上る店のテレビニュースに思わず微笑む。
「もう大丈夫そうだな。セイルーンも」
「そうね。なんたって正義の熱血親子がいるんだもん。大丈夫よ」
土曜日で幼稚園が休みのガウリィはいつものピンクのエプロンを黒のエプロンに変えてカウンターの内側で自分の紅茶を入れていた。
客の流れも一段落ついた午後の遅い時間。
ガウリィからカップを渡され一口飲む。うん、美味しい。
「ひさびさの仕事の割に厄介な相手だったな」
ポンポンと大きな手があたしの頭を包み込む。見上げるとあたしをいたわるような柔らかいガウリィの笑顔。
「大丈夫よ?」
ったく、過保護なんだから。
因縁浅からぬ連中相手に正面きって戦ったわけだから、これからいざこざがあるかも知れないけど。そんなの気にしちゃいられない。
降り掛かる火の粉は払えばいいのよ。
それに、あたしはひとりじゃないし、ね。
「そういや、リナ。依頼料のことなんだが・・・」
「えー、何の事?リナちゃんわかんなーい」
「誤魔化すなっ。俺の取り分まだもらってないぞ!」
「だってまだ振り込んでもらってないんだもん。渡しようがないでしょーが」
そうなのだ。
まあ、金額が金額なもんで現金一括払いって人はなかなかいない。大体銀行の口座に振り込んでもらうようになっているのだが。
「国のいざこざがすんでからでいいわよ。身元もハッキリしてるから逃げる事も出来ないしね」
「・・・・珍しいな。お前さんが金の支払いに寛大なのって・・・・」
どこか怯えた表情でガウリィがジリジリと後ずさりする。
「あのねぇっ・・・」
かららんっ
「あ、いらっしゃ・・・」
「こんにちはっ、リナさんっ」
「「アメリアさん?」」
思わずあたしとガウリィの声がはもる。彼女が国に帰ってからまだ1週間ぐらいしかたってないのに、何でここにいるんだろう。
「セイルーンの騒動も一段落ついたので戻ってきたんです。本当は父さんがわたしが国を離れるのを渋ったんですけど、リナさんたちのことを話したら『だったら安心だ。これからもよろしく頼む』って」
にこにこと上機嫌なアメリアさん。思わず顔を見合わせるあたしたち。
まあ、彼女のことは気に入って入るけど、これからもよろしくって・・・
「それでですね。実は依頼料なんですけど・・・・わたしの貯金からじゃ払いきれないんで、ここでバイトさせてくれませんか?」
なんですって!?
「お姫さまのくせに国から依頼料もらえなかったんかいっ?!」
「だって、個人的な事に国の予算使うわけにいかないじゃないですか。わたしの学費や生活費だって自分のバイト代で賄ってるんですよ」
「・・・・・んじゃ、最初の交渉の時から支払いはつけになるってわかってたわけね?」
「そ、そーゆーことになります、ね」
あたしの表情に何を感じたかジリジリと後ずさりながら引きつった笑みを浮かべるアメリア。
「アーメーリーアーっ!そうとわかったら早速働けっ。きりきり働けーっ!」
「はいいーーっっ」
逃げるアメリアを追うあたし。その様子を苦笑しながらガウリィが見つめてる。
一難去ってまた一難?
これからの賑やかな日々を思って走り回るうちに笑いが込み上げてきた。
はてさて、明日からはどんな日々が待っているのやら。
静かな公園の片隅。
小さな喫茶店からはドタバタと激しい音がいつまでも響いてきていた。
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