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「おおっっ!?」
「おわあぁぁっっ!?」
あたしとガウリィはそれを見て思わずのけぞった。
「どーです!?僕の店『黄金の炎の騎士団』です!」
自信満々で胸を仰け反らせ、店内に向かって進むジェフリーの後を引きつり笑いを浮かべながらついていくあたしたち。
――――店事体は外装も内装も悪くはない。確かにその手の店だけあって派手ではあるが、嫌みはない。多分名のある建築家が手掛けたのだろう。お金はたっぷりかけてるなーってわかる調度品もお酒の種類も文句なし。
そこまではいい、しかしっっ!
「「お疲れさまです」」
「おはよう。今日もよろしく!」
店の入り口にズラッと並んで店長であるジェフリーを迎える従業員の数々、それがっっ!
みんなしてひょろひょろで顔色の悪い、ジェフリータイプの男ばかりなのだっっ!!
・・・・・女の子、来た途端に逃げ出すぞ・・・
怪しい宗教にころっと騙されるのもわかるような気がする。なんか自発的に考えるって事をしなさそーな、女の子を弄ぶより反対に貢いでしまいそーな、そんな雰囲気が伝わってくるのだ。
「どうです、リナさん、ガウリィさん!」
「・・・・・はあ・・・」
「・・・・客、入ってるのか?」
気のない返事をするあたしととりあえず現実的な疑問を口にしたガウリィ。
そのガウリィにジェフリーが大きく腕を振って店内を指し示す。
「もちろんです!この僕の経営方針の元、激選した従業員たちのきめ細かで溢れる程のサービスにより、常連さまもちゃんといます!今はまだ開店前ですからお客さまは来ていませんが、いつも開店と同時に満席になるんですよ」
「開店時間は何時なの?」
「開店は午後8時で閉店は午前1時です」
「5時間だけ?」
「はい。それ以上遅くなると眠くなりますし、何より帰る時怖いじゃないですか」
「・・・・・・・そーね・・・・」
胸をはって答えるようなことじゃないっての。
うう、開店までまだ2時間はある。それまでここにいなきゃならないってのはかなり嫌だなぁ。夕食も食べてないし・・・・おっ、名案♪
「じゃあジェフリー。あたしは客、ガウリィは新米ホストって事で店を見守るわ。その方が自然に見えるし自由に動けるでしょう?」
「そうですね」
ガウリィが何か言いたそうにしてるけどこの際無視。
「その女ってのは大体何時頃現れるの?」
「大体9時頃ですかね。バイトが終わってから来るって前に言ってましたから」
「そう。それじゃあたしはその女の身辺調査をかねて一度店を出るわね。9時頃また来るわ。ガウリィは内部調査って事で置いてくから」
「ちょっと待て、リナっ」
「文句言わない!その女が来たら新顔のあんたに必ず宗教の勧誘をしてくるはずよ。様子を伺いながら出来るだけ話を合わせてその気にさせるの」
ガウリィに向き直り真直ぐ瞳を見つめたままがしっと手を取る。
暖かく大きなガウリィの手を強く握りしめて。告げる。
「いい、ガウリィ。これはあなたにしか出来ないことなのよ」
「・・・・自分だけ逃げようとしてるだろ・・・」
ジト目で見下ろす蒼い瞳から視線を逸らし、背中に流れる汗を隠すあたし。
「や、やーねー。そんなことちょっぴり考えてるかもしれないけれどきっと気のせいよ。それにほらっ、開店前から女の子が店の中にいたらやっぱり変じゃない。ね?」
「・・・・そーいえば飯もまだだったもんな」
「・・・・・」
「第一、計画的に俺が考えて行動するなんて出来ると思うか?」
・・・・自信たっぷり情けない事言い切るなっ!
引きつった笑顔を浮かべるあたしの頭を軽く小突くとガウリィは深い諦めのため息をついた。
「ま、確かにターゲットが現れるまでお前さんがここにいても浮くだけだしな」
「どーゆー意味よ」
「普通だったら入店拒否されてもおかしくないだろうが、まだ子供なんだから」
「誰が子供よっ」
「そうやってムキになるお前さんがだよ」
にやにや笑ってあたしの髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜるガウリィ。ったくっっ、そりゃちょっとばかし童顔で子供っぽい所もあるかもしれないけれど、あたしはもう子供じゃないだからっっ!
「ジェフリー!あたしが来るまでガウリィこき使ってもいいから!んじゃそーゆう事でよろしく!」
一方的に言い捨て、あたしは足早に店を出た。
ふんだっ!
ガウリィのバカクラゲ!
ざわざわざわ・・・
以外や以外。店は混んでいた。
――――その理由はただひとつ。店の外で覆面かぶったジョセフィーヌさんが、 『をほほほほほほほっっ、この店はたくのジェフリーちゃんが経営してるんざぁますけれど、質サービス共に超一流なんざますのよ。さあこちらざますわ、おほほほほほっ』っと、道ゆく女性を片っ端から高周波攻撃でもってかく乱し、店に押し込んでしまうからである。
・・・・入ってしまった女性達はすぐにでも逃げ出したいのだろうが、そうすると問答無用のジョセフィーヌさんの攻撃がくるもんで、やけになって飲んでいくものが多いらしい。
平均入室時間、30分ということだ。
「ガードナー、ワインが空いてしまいましたわ。新しいボトルを一本あなたに恵んで差し上げますからこの場で一気飲みして下さらない?」
「エレミーさま、はい、ただいまお持ちいたします。けれど僕はお酒飲めないんですけれども・・」
「まあ!わたくしの為にはどんなこともやる。命を投げ出すこともいとわない程わたくしを愛しているとおっしゃったのはガードナー、あなたではなくって!?」
ま、中には自分の意志で入店してきて、お気に入りホストを苛め倒して喜んでいる女性もいたりするのだが。
好みは人それぞれである。
「あなたの為だったら有り金すべて貢いでもかまわないわ」
「ねぇ、デートしましょうよ。店が終わったら。今すぐでもかまわないわよ、ね」
「ガウリィさまはわたしのものよっ。ねぇ、ガウリィさま?わたしに微笑んでくれたのは嘘じゃないわよね?」
そして店の奥、黒山の人だかりの隙間から引きつった笑顔のまま硬直しているガウリィ。
店に連れ込まれてしまった女性達のほぼ全員がガウリィに群がっていた。まぁ、無理もないことだ。この中で一番まともで文句なしにかっこいいのだから。
でもこうやって見ていると、ガウリィはホストというより珍獣のよう。何気ない動作ですら周りから黄色い声が騒ぎ立てる。
・・・・・これじゃ、例の女が来てもガウリィの側に近寄れないだろう。
――――なーんか、さっきからちくちくするのよね。別にガウリィを気にしてるわけじゃないわよ。
微かな、でも間違いない。あたしに敵意をもっている小さなトゲのような感情。
この騒ぎの中、どこから向けられているのかわからない。途切れ途切れで伝わってくるから追うにも追えない。
何より、今は仕事中。自分の事にかまってはいられないのだ。
それにしても・・・・
「ジェフリー・・・大丈夫?」
「だ、だいじょ・・・うっ、うぶっう」
盛大な溜め息をつきつつあたしは専用の洗面器に顔を突っ込んでいるジェフリーの背中を擦ってやった。
まったく情けないったら。
ジェフリーを始めとしてここの連中、お酒飲めない男ばかりなのだ。普通お酒を飲ませて飲んでなんぼの世界でしょ?何やってんだか・・・
他のホストたちは所在なさげに壁にへばりついている。ガウリィに群がっている女の子達の迫力にびびって近づくことも出来ないらしい。
・・・・どこにきめ細かで溢れる程のサービス精神があるというんだろう・・・・いやまぁ、すでに何も期待はしちゃいないけどさ。
溜め息をついてちびちびとあたしもワインを舐めた。
ったく・・・来るなら早く来てよね。これで今日は来なくて来るまで毎日ここに通うとかになったら・・・あたし、暴れちゃうかも・・・
「おーほっほっほっほっほっ」
――――ごんっ!
突然の笑い声にあたしは思わずテーブルに頭を打ち付けてしまった。
・・・・この手の笑いをする奴にろくな奴はいない。
昔の仕事で知り合った奴といい、妖怪じみたおばはんといい、絶対ろくなもんじゃない!
「今夜もゾアメルグスターさまの御加護があらんことを!」
「「ビバ!ゾアメルグスター!」」
その女の掛け声と共に今までぬぼーと立っていたホストたちが一斉に胸ポケットから奇妙なバッチを取り出して手に掲げる。
――――こりゃかなり重症だわ。
今までほとんど声を出すことがなかった男達が声をあげたことで、ガウリィを取り巻いていた女の子達も一斉に振り返った。
「ほーっほっほっほっほっほっほおっっ!?」
あたしがゆっくり顔をあげると、女の高笑いがいきなり音程をひっくり返した。
「ああああああんたっっ!リナ・インバースっっ!」
「――――誰よ?あたしを知ってるわけ?」
あたしの目の前で硬直しているのは、あたしと同じぐらいの年の女。顔の両脇でクルクルの縦カールを揺らし、金色と黒という派手なツートンカラーの露出部分が多い服を着て、奇妙な顔らしきバッチを手に掲げている。
その手はブルブルと震え、彼女の顔色は赤と青を行ったり来たりしていた。
「忘れたとは言わせないわよっ!あたしよっ、マルチナ・ゾアナ・メル・ナブラチロアよっっ!あんたのせいで家も地位も財産もすべて無くして、今じゃ造花のバイトして何とか生計を立ててるんだからっっ」
下を噛みそうな長い名前を名乗ってあたしをキッっと睨み付けてくる。大きな目が獲物を狙う猫のように細められた。けれど、
「しんない」
――――――ばた。
あたしの一言でマルチナは床に倒れた。
「あんたねえっっ!あれ程の事をしでかしておきながら忘れたなんてっ、その小さい胸と一緒で脳みそまで小さいわけ?」
「爆煙舞!」
反射的にあたしは魔法をぶちかましていた。
「うひゃあああっっ!?」
全身からぷすぷすと煙を漂わせあちこち煤こげたマルチナがぱったりと倒れる。
何もない空間からいきなり現れたいくつかの火の玉とそれが触れたことによる小爆発で、店内は一気にパニックになった。が・・・・
「大丈夫だから順番を守って。こら、押しちゃダメだぞ。君のお会計は一万五百円。はい、おつり。ありがとうな」
「ガウリィさまぁ〜」
「今日は危ないから、また来てくれな。寄り道しないで真直ぐ帰るんだぞ」
――――あたしに叩き込まれた商売人精神と幼稚園で培った保護意識により、ガウリィは逃げようと戸口に殺到する女の子達を順序良く並ばせ、しっかり会計をして帰らせていた。
「んっんっんっ。寝たふりしたって無駄よ。ちゃーんと威力は押さえてあげたんだから」
無気味な笑いを浮かべつつ、あたしは足の先でぴくぴくしているマルチナを突ついた。
「いきなり何するのよっ、痛いじゃない!」
勢い良く立ち上がりあたしの顔を見て・・・ひくっと引きつる。
「な、何よ。あたしにはあの時より数段パワーアップしたゾアメルグスターさまがついているんだから。このくらい・・・」
「電撃!」
―――――びりばりばたり
「ゾアメルグスターだか何だかしんないけど、どーこに神の加護があるのかなぁ?」
「・・・・・あーあ、リナの逆鱗に触れちまって。可哀想に」
ガウリィのあきれきった声が聞こえるがもちろんここで終わらせてなどあげない。
人が唯一気にしていることに触れたのだから!
「あんたたちっ!」
「「は、はいっ」」
事の成りゆきをジッと見ていた、というより、ほとんどの者が茫然自失で腰を抜かしてへたり込んでいたのだが。あたしが情けないホストたちに声をかけると、今にも泣き出しそうな微かな声を返してきた。
「そのバッチに御利益あるか試してみたい?」
「「いいいいいいやですうぅぅぅ」」
ひいっと悲鳴すら上げながらホストたちが手にした奇妙なバッチを一斉に放り投げた。
「ああああっっ!?ひどいわっ!わたくしが夜なべをして1つずつ手作りしたゾアメルグスターさまを・・・っ」
いつの間にかまたも復活していたマルチナが、その光景を見て目に涙を浮かべていた。
「ふっ。これで依頼の半分は片付けたわ。後はあんたを袋叩きにすればお終いよ」
「待って下さい!騎士たるもの安易に暴力で総てを解決するなど言語道断!僕が説得してみせます」
・ ・・・・あ、ジェフリー。そぉいえばいたんだっけ・・・
今まですっかり忘れていたのだが、やおら胸を張ってマルチナの前に歩み寄り・・・・いきなり倒れた。
「ジェフリー!?」
「ううう・・・ぎぼぢわるいぃぃぃ」
・・・・・どうやらまだ悪酔いが続いているらしい。
「ほら、しっかりしろよ」
ガウリィが力の抜けきったジェフリーを抱えて介抱に回る。あーもー、頼むからそのまま寝ててくれ。
「・・・何なのあいつ。説得とか騎士だとか何様のつもりよ。ばっかじゃない」
「ジェフリーちゃんに向かってバカとは何ですか!」
ばぎょおおおおんっっっ!!
後頭部に鉄製のプラカードのしかも角を思いっきり打ち込まれ、マルチナが床にめり込むようにして倒れた。
――――でたなっ、妖怪っっ!
あたしとガウリィの背中を緊張の汗が流れ落ちる。
「まああっっったくっっ!最近の若者は何て口が悪いんざましょ。生まれと育ちを疑いたくなりますわ。しかもっ、ジェフリーちゃんの素晴らしさを欠片も理解出来ないばかりか自分の低俗さを棚に上げてあろうことかジェフリーちゃんをバカなどとっっ!騎士たるもの女性には決して手をあげないというジェフリーちゃんの優しさを土足で踏みにじって、ジェフリーちゃんの繊細な心を傷つけたら、あなたっ。一体どう責任を取るおつもりですことっっ!!」
覆面被った怪しい物体に頭ごなしに理不尽な説教を受けたのがよほど悔しいのか、マルチナがよろよろと立ち上がる。
胸にしっかりとゾアメルグスターのバッチを握りしめ、ビシっとジェフリーを指差した。
「騎士も何もこの人はあたしの信者よ!この店でゲットしたゾアナ教信者第1号!教祖であるあたくしに忠誠を誓った!」
――――――はい?
「ちょっと、ジェフリー。どーゆーことなの?」
氷水を飲んでやっと落ち着いたジェフリーにあたしは詰め寄った。
「何がです?」
「あんたも信者だってマルチナは言ってるけど本当なの?」
じっと見つめる4人の視線。
ジェフリーは何か考える素振りを見せ・・・こくん、とうなずいた。
・・・・・・・・・・
「おーほっほっほっほっ!見なさい。ゾアメルグスターさまの勝利を!」
「あんたねぇ!あなたが依頼したのよ?怪しい宗教を広めてる奴を追い払ってくれって!」
ごずっっ!ぱた
「お離しなさいっ。ジェフリーちゃんには何か考えがあるはずざますっ」
「・・・・しょーもないなぁ。リナ、生きてるか?」
「敵を騙すにはまず味方から!と言うではありませんか!」
「うだあぁぁあああっっっ!!んじゃ聞くけどっ、どっちが敵でどっちが味方なのかはっきりきっぱり言ってみなさいっっ」
おばはんに脳天への一撃を受け床につっぷしていたあたしが叫びと共に立ち上がる。
あたしの叫びと同時にジェフリーを囲む4人。
ジェフリーの唇が動く。
ごくっと、誰かの喉が鳴った。
「それはもちろんっ!お客さまは神様ですからマルチナ様の味方です、と言いたいところですが僕はこの店を守り発展させさらに世界の平和を守る最前線に出ていくという崇高な使命がありますので、いっそのことゾアナ教という名前を『ジェフリー教』とかに変えて僕の部下になるっていうのはどうでしょう!」
胸を張って答えるジェフリーの言葉が終わると同時に、4人の内3人の血管がぷちっと切れた。
「「「どうでしょうじゃないぃぃぃぃっっっっ!!」」」
「ジェフリーちゃんになにするんざますかあぁぁっっ」
つかみかかったあたしたちの頭に目にも止まらぬ速さでハリセンが打ち込まれる。
―――――ぷち
「・・・・ふっふっふっふっふっ・・・・悩む間でもないわよ・・・」
「リ、リナっ。落ち着けっ!ここは部屋の中だぞ!」
「だいじょーぶ。保険はかけてあるはずだから」
ゆらり、とあたしの身体のまわりに淡いオーラがたち登る。この光が見える人はごく限られているらしいのだが、見えない人でもこの不穏な空気を感じることは出来るだろう。
つまり、あたしがぶち切れたということを本能的に感じるのだ。
「【黄昏よりも暗きもの 血の流れより赤きもの】―――」
無謀というか果敢と言うか、ジョセフィーヌさんの攻撃にめげずにジェフリーに食って掛かっていたマルチナが、ゆっくり立ち上がったあたしをちらっと見た途端、さーっと顔色を変えた。
「【時の流れに埋もれし 偉大なる汝の名において 我ここに闇に誓わん】―――」
「ち、ちょっとリナ、目が怖いんですけど・・・」
ずりずりと壁際に擦りよっていくマルチナ。逃げるには自らのプライドが許さないのだろう。この瞬間、彼女の運命は決まった。
「【我らが前に立ち塞がりし総ての愚かなる者に 我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを】!」
「避難経路確保!早く逃げるんだ!慌てて走ると転んで怪我するからな!」
ガウリィに誘導されるまでもなく、すでに存在を忘れ去っていた店のひょろひょろホストたちは音もなく店から逃げ去っていた。
ガウリィにもわかっているのだ。
こうなってしまったリナを、もはや誰にも止められないことを!ガウリィに出来るのは少しでも被害を少なくするためにせめて巻き込む人間を減らすだけなのだ。
「あれ?どうかしましたか。リナさん?」
「やぁっぱりジェフリーちゃんはちゃあんと先の事まで考えていたんざますわね。世界の平和を守るなんて、なんて素晴らしいんでしょ!ちょっとリナさん。ちゃんと聞いてるんざますか?」
きょとんとした顔で振り返るジェフリーと自分の息子の言動に感動して涙を流すジョセフィーヌさん。
・・・・聞いてしまったから、こうなってしまったのだよ・・・・
あたしは2人に向かって、にっこりと微笑んだ。
「【竜破斬】!!」
ちゅどーんっっ!!
―――――それが『黄金の炎の騎士団』の最期だった。
◇◇◇◇◇
【――――お前は「反省」とか「追われる自覚」とかいったものはないのか?
あれ程目立つことはするなと釘を刺しといただろーが!!
歩く無差別兵器だな。まったく・・・
ところで、その『ゾアナ教』とかいうやつだが。
・・・・お前が前の仕事をしていた時に本部を潰したやつだ、確か。
かなり大規模な新興宗教で、『ゾアメルグスターをあがめ奉る者は魔力を秘めた魔人の加護を受け、世界の終末にも生き残ることが出来る』を宣伝文句にして、勧誘した者に洗脳を施していたことの裏づけを取りにいって、その勢いで気に入らなかったからと潰してきただろう。
旦那も一緒じゃなかったか?コンビを組み出した直後ぐらいだぞ?
ま、お前がすっかり忘れ去っているくらいだ。旦那が覚えているわけがないな。
力技で何とかしようとするとこはまったく変わらんな。ともかく!もう少し自重しろよ!
――――Z】
「あっ、そーか。なるほどねー、そーいやそんなこともあったわ。うん」
「何がだ?」
「マルチナがさー、あたしの事知ってたじゃない?不思議に思ってゼルに調べてもらってたのよ」
言いながらパソコンの画面を指差す。ガウリィが覗き込んでうーん、と首を捻った。
やっぱり覚えてないか。当然よね、あたしだって綺麗さっぱり忘れ去っていたもん。
ジェフリーの店をぶっ潰してから早四日。
ニュースや新聞ではあれはガス爆発があった、としている。魔法の存在は世間では一般なことではない。しかもこんなとんでもない威力を持った魔法がある何てこと思いもよらないだろう。ガス爆発じゃなかったら爆弾でも投げ込まれた、というところが常識の範囲内。
当然店は閉業。しょうがないよね、跡形もなく吹っ飛んじゃったから。
でも、一応威力はセーブしたんだよ?
あたしがパワー全開であの魔法使ったらあそこ一帯クレーターが出来ちゃうもん。なんたって核爆発に匹敵する威力があるんだから。
依頼は一応果たしたし。まぁ、ちょっぴし店は潰しちゃったけど、あれははっきり言って世の中の為にはなったと思う。うん。少なくとも覆面したおばはんに拉致される女性がいなくなったことを考えれば善行以外の何でもない。
ジェフリーもあれで懲りてもう少し世の中を見れるようになればいいのだが。
マルチナはどうなったのか知らない。ぴくぴくと動いていたからきっとどこかで生きているだろう。
頑丈そうだったし、造花のバイトに励んでいるんじゃないかな。どーでもいいけどね。
後はただ祈るのみである。
2度とあいつらが店に現れないことを!
「やっぱりあたしも見にいけばよかったなぁ。一体どんな魔法を使ったんです?」
「んー、解読されているものの中で最高最強の破壊呪文よ。これ使えるのはウィザードの中でもほんの数人しかいないんだけどね」
「ええっ、すっごーい!今度やって見せてください!」
前世界の存在を証明するものの1つ、『魔法』。
黒魔法と呼ばれる攻撃型の最高位が今回使った『竜破斬』。
呪文の解読をすると、とてつもなく強大な魔王が存在していた・・・らしい。
本当のところは誰にもわからないが、あたしがこの術を使えるということは確かだ。
これを使えるって事で色々厄介事に巻き込まれてもいる。
―――時々思う。
封印されていたはずの力を解き放ってしまったことは、災厄を引き寄せることにつながるんじゃないかと。
・・・・この今の世界が永遠でないことを、思い知らされる。
「こらこら、リナを調子に乗せないでくれよアメリア」
あたしの頭をこつんと小突いてガウリィが苦笑した。
店はすでに閉店している。
幼稚園の仕事を早く終わらせたガウリィが迎えに来たから、店を早々と終わらせてお茶を飲んでいたのだ。バイトのアメリアも一緒に。
まったくね、本当に心配性なんだから。
これだけ派手にやってしまったんだからあたしたちを狙ってる連中に居場所を教えているようなものだ。
あの時ちくちくとあたしを刺していた視線と感情。あれをガウリィも感じていたらしい。あの時は女の子たちに囲まれて気配を辿ることはさすがのガウリィにも無理だったみたいだけど。
だからいつそいつらが何か仕掛けてきてもおかしくない。
なるべく1人の時間を作らない、させない、ならない。って、ここんとこ毎日迎えに来る。
まあね。2人でいれば怖いものはないし、どちらかというと面倒な厄介事はなるべく早く済ませてしまいたい。
せっかくの友人の忠告だがあたしのモットーは『自覚はすれども反省せず』なのだから仕方がないっしょ。
「怖いもの見たさで見たいってあるじゃないですか」
「本当に怖いんだぞ」
ガウリィの真面目な表情と声にアメリアが小さく目を見開いた。
「あのね、アメリア・・・」
――――カラランっ
閉店のプレートをかけているにも関わらず誰かが店に入って来た。
「すみません。今日はもう閉店・・・」
「あらまぁ、客じゃないんですのよ、リナさん。わたくしです。閉店しているのに悪いとは思ったんざますけれど今日はその後の様子を一応報告にと思いまして寄らせていただいたんですのよ。おほほほほほほっ」
・・・・・う、嘘でしょ。誰か嘘だと言ってくれ・・・!
悪夢のごとき高周波を立ててそこに現れたのは、息子に対する過保護さではガウリィも負ける、人類を超越してすでに妖怪の域に達しているジョセフィーヌさん!
その高笑いを耳にした瞬間にあたしたちはものの見事に彫像と化した。
「まあ、なんざんしょ。あの時は原因不明の大爆発でジェフリーちゃんの店が全壊してしまいましたでしょ?いえね、ちゃんと保険には入ってしましたし死傷者が出なかったことが不幸中の幸いと申しますかねぇ。けれどやはりジェフリーちゃんは繊細な子ですのでショックを受けてしまいましたの。それでも見事に立ち直り、今は新たな目標を立てこれから修行の旅に出ると張り切っているんですのよ。『騎士を志すもの、すなわち世界の平和の為に戦うことだ!』と言い出しましてね、無論わたくしとしては可愛いジェフリーちゃんが戦うなどと野蛮なことは反対なんざぁますが、やはり母親というものは息子には甘くなってしまうんですわね。可愛い子には旅をさせろとも申しますし、ジェフリーちゃんのゆくところ、どこまでも影で見守ろうと決心したんざますよ。ほほほほほほっ!」
――――ジョセフィーヌさんの高周波とジェフリー自慢は永遠と続く。
その中であたしは口を貝のように固く閉ざし、ただ1つの事だけを願っていた。
どうか修行の旅に出た2人が、2度と戻ってきませんように・・・・!
「聞いてますの?リナさん。それでですわね、ジェフリーちゃんは・・・・」
◇◇◇◇◇
―――――ジョセフィーヌさんが帰った後、店中に塩を巻き浄め、お払いと厄よけを兼ねて店を一週間臨時休業にしたのだった。
・・・・しくしくしく・・・・
やっぱしこの仕事は人生最大の失敗だったようだ・・・・・
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